低コストで高収益を上げるビジネスモデルを確立するにはどうすればいいのか。重要なのは、想定外の機会を活用する「柔軟性」です。偶然をも味方につけ市場のリーダーが見向きもしないセグメントに参入し、他社がまねできない独自のモデルを作った知られざる企業があります。半導体メーカーである英・ARM Ltd.です。今回はARMの物語をひもといていきましょう。(エトス経営研究所 代表取締役 宮永博史)
ものすごいのに、知られていない
英ARMの優れたビジネスモデルとは?
英ARM Ltd. (以下、ARM)のビジネスモデルは、これでもかというほど数多くの成功要因が含まれています。業績も見事ですし、30年近く競合の参入を許していません。
スマホに内蔵するCPU(CentrAl Processing Unit:ハードウエアやソフトウエアから受け取る全ての指示を処理するパーツ)では「低消費電力」を強みにして、実に95%ものシェアを獲得。王者インテルさえも寄せ付けません。さらに最近では、スマホだけでなくスーパーコンピューター「富岳」にも採用されるなど、もはや強みは低消費電力だけでないことを示しました。
また、ソフトバンクに買収される前に公開していた営業利益率も50%近い驚異的なものでした。
これほど成功したビジネスモデルであるにもかかわらず、一般的には、あまり知られていません。それどころか、「ソフトバンクが3.3兆円で買収した」というニュースを聞くまで社名すら聞いたことがなかった人がほとんどだと思います。ビジネス関連のメディアでもARMのビジネスモデルについて解説したものはあまりみかけません。せいぜい「設計協力」と書かれていたりします。
ビジネススクールにおいても、筆者が知る限り、ケースとして議論されている例は少ないようです。一体なぜでしょうか。