西洋の科学が長年にわたって治療法を模索してきた、誰もが避けられない“病”―それが“老い”です。これから逃れるのは不可能であり、せいぜい進行を遅らせることしかできません。

 ところが日本人はずいぶん前に、奇跡の処方箋を発見していました。

 特に沖縄県北部のある島では、90歳はまだ若造で、100歳になると踊れや歌えやと、まるで成人になったかのようなお祝いをするのです。興味深いことに沖縄県は、日本の中でも第二次世界大戦において最も大きな影響を受けた地域のひとつであるということです。

 島民の健康的な老いを支えているのは、バランスのとれたライフスタイルではないでしょうか。ほどほどの食事を摂り、生き甲斐を失わないよう、軽い肉体労働で忙しくあり続けて、気持ちを穏やかに保っているのです。そこに住む多くの人々は、身体がもたなくなるまで忙しい生活を送ろうとします。ですが西洋の価値観とは違って、そんな生活を死の間際まで続けようとすることも珍しくないのです。

生き甲斐―生き急ぐライフスタイルではない

 このように日本人の考え方は、西洋人のメンタリティとは対照的です。

 われわれ資本主義者が考える理想的なイメージとしては、より大きく、よりよく、より多くを常に追求します。ところが時代が進むに従って、世界は動きをどんどん速めているようで、このままブレーキをかけないでいると、われわれ自身が終焉を迎える前にガソリン切れになってしまうかもしれない状況ではないでしょうか。

 コロナ禍の現在、私たちの多くがそんな状況であることを再確認できたはずです。少しくらい立ち止まっても、世界は動き続けるということを…。そんな人生で大切なのは、どれだけ多くの仕事をするかではなく、どれだけ満足のいく生活を送るかなのです。仕事は必要ですが、やりすぎは禁物というわけです。

 テキサス州フォートワースを拠点に、ストレスの軽減、職場でのストレス、兵役に関連するストレス、慢性的な管理されていないストレスの健康への影響に関する情報を提供する「アメリカン・インスティテュート・オブ・ストレス」が、老齢による衰えについて調査したところ、「健康に最も悪影響を与える要因はストレス」であるという結果が導き出されました。

 西洋人のライフスタイルとストレスは、切っても切り離せない存在です。「お元気ですか?」と挨拶されると、私たちは「元気でバリバリ働いているよ!」と答えたくなります。まるでそれが「普通だ」と言わんばかりに…。それがどういう結果をもたらすかということを考える余裕がないのです。例えばこの記事を読みながら、メールに返信したり、ネットフリックスでお気に入りのシリーズをチェックしていたりするようでは、リラックスしているときですらストレスにさらされていることになります。

 とは言え、日本は生産力の高さと労働日数の多さは世界でも有名で、西洋化された大都市においては、「誰も立ち止まらない」という、ある種のウォールストリート的な日常が見られます。

 そして文字通り、働きすぎて死ぬことを意味する“過労死(karoshi)”という言葉も存在するのが、日本という国の一面でもあります…。