連載の2回目では、コロナ禍での財政政策の効果を検証する。雇用調整助成金をはじめとする雇用維持に向けた財政支出は、失業率の上昇を抑制し、一定の成果を上げた。しかし、国民への一律給付金は、消費を押し上げるには至らず、効果は乏しかった。Go Toキャンペーンの実施は経済効果もあったものの、感染拡大への影響を考えると功罪相半ばの結果をもたらした。(日興リサーチセンター研究顧問・立正大学学長 吉川 洋、日興リサーチセンター理事長 山口廣秀、前日興リサーチセンター理事長室室長代理 杉野 聖)
コロナ禍で大胆な財政出動
20年度の予算規模は175兆円に拡大
経済対策の柱は、財政・金融政策である。
ここでは、ゼロ金利の下での金融政策の有効性については立ち入らないが、2013年4月に始まった“異次元の金融緩和”が期待どおりの成果を生まなかったこと、いわゆる非伝統的金融政策には限界があることは、今や世界的にもコンセンサスになったと言ってよいのではないだろうか。
『国家は破綻する――金融危機の800年』の著者として知られる、世界銀行チーフエコノミストのカーメン・ラインハートも次のように述べている。
「『低金利長期化のわな』に陥っていると言えるかもしれない。どう呼ぶにせよ、中央銀行の手は縛られている」「追加の財政出動が可能な先進国は、打撃が集中した個人や企業に資本を入れて支えるべきで、緊縮に転じるのは時期尚早だ」
21年2月12日、米国のジャネット・イエレン財務長官も、G7(先進7カ国)財務相・中央銀行総裁会議で「今こそ大胆な財政出動に踏み切る時だ」と発言し、各国に協調を呼びかけた。
非伝統的な金融政策の効果が限られている以上、財政政策が中心的な役割を担わざるを得ない。そこで今回は財政政策について検証した後、次回で制約が大きい中で金融政策がどのような役割を担ってきたか検討することにしたい。
20年度の一般会計の当初予算規模は102兆6580億円だったが、コロナ禍を受け3次にわたる補正予算が編成された。08年のリーマンショック後10年あまり、一般会計はおおむね100兆円前後で推移してきた。これが20年度は補正後175.7兆円と、まさに未曽有の歳出に達した(下グラフ参照)。
3次にわたる補正予算の歳出の総額は76兆7789億円、対GDP(国内総生産)比14%である。ラインハート氏やイエレン氏の言うとおり、戦後最悪の経済の落ち込みを前にして、財政支出は拡大せざるを得なかった。