4月23日、パナソニックは世界最大のサプライチェーンソフトウエア企業である米ブルーヨンダーを買収すると発表した。買収総額は実に71億ドル(約7700億円)。三洋電機をはじめ、過去30年のM&A(企業の合併・買収)はことごとく不発に終わるが、それでも楠見雄規・次期社長が買収にゴーサインを出した理由はどこにあるのか。特集『パナソニックの呪縛』(全13回)の第4回では、巨額買収の思惑に迫る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
映画大手、三洋、電工は「不発」でも
過去最大級の買収に果敢に挑む
パナソニックが大ばくちに打って出る。4月23日、世界最大のサプライチェーンソフトウエア企業である米ブルーヨンダーを買収すると発表したのだ。総額は実に71億ドル(約7700億円)。パナソニックにとっては過去最大級の買収劇となる。
パナソニックといえば、過去30年のM&A(企業の合併・買収)の実績から“買収下手”という不名誉な市場評価が定まっている。例えば、1990年に「ソフトウエアとハードウエアの融合による新しい事業展開」を掲げて買収を発表した米映画大手MCA(現NBCユニバーサル、買収額約7800億円)は、なかなか協業を進められずに5年足らずで株式の80%を手放した。
2011年までに総額9290億円を投じて完全子会社化した三洋電機とパナソニック電工も、「両社のポテンシャルを生かし切れているとは言い難い」(パナソニック幹部)。三洋電機に強みがあった角形電池事業は、トヨタ自動車との合弁会社に移管。パナ電工を含め、商材を増やすことでもくろんだ「家やビル、街などに対するソリューションをまとめて提供する『まるごと事業』」のコンセプトも、腰折れで終わってしまっている。
そんなパナソニックがまたもや巨額を投じて企業買収をするというのだから、社内外には驚きと懸念の声が上がった。
特に、ブルーヨンダーの企業価値は85億ドルと、パナソニックが20%出資した20年7月時点から30億ドルも向上していた。
これは、ブルーヨンダーの事業が、リカーリング比率(商品販売後も継続的に収入が見込めるサービス事業の比率)が高く安定している点と、上場している競合他社の株価が昨年の4月から年末にかけて約2倍に上がっている点の二つを考慮した結果だという。とはいえ、「業界がバブっているのも事実」(別のパナソニック幹部)である。
買収直前の4月8日、ブルーヨンダーが新規株式公開に向けた書類を米証券取引委員会に提出したことをホームページで発表していたというのも、何ともきな臭い。実質株主である米ファンドのブラックストーングループとニューマウンテンキャピタルは複数の「出口戦略」を模索していたということだが、パナソニックへの売却額の引き上げを目的としていたようにも見えるのだ。
それでも楠見雄規・パナソニック次期社長は、「買収金額は巨額だが、さりとて(営業キャッシュフローの創出や事業の入れ替え・資産売却が進んでおり、)他の投資ができなくなるわけではない」と、会見の場で言い切った。
そこまでして、パナソニックの経営陣が一世一代の賭けに打って出るのはなぜなのか。