パナソニックの呪縛Photo:The Asahi Shimbun/gettyimages

津賀一宏社長の寵愛を受けたR&D出身者、リストラ専門の整理屋、頭脳明晰だが人望がない――。パナソニックの新社長に就任する楠見雄規氏の社内評は、必ずしも芳しいものばかりではない。しかし、楠見氏と仕事を共にした社内外の関係者からは、そうした前評判とは乖離した「人物像」についても語られている。楠見氏とは何者なのか。特集『パナソニックの呪縛』(全13回)の第5回では、新生パナソニックを率いる経営者の素顔に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

「三洋電機をトヨタに押し付けた男」
社内評と乖離する次期社長の実像

「旧三洋電機をトヨタ自動車に押し付けた功績で、社長にまで上り詰めた人」。パナソニックの車載機器部門に属する社員が思わず軽口を叩いた。

 社員26万人の巨大組織で9年ぶりのトップ交代が行われる。6月末、パナソニック9代目社長として楠見雄規氏(56歳)が登板するのだ。

  2021年3月期決算で売上高7兆円の大台を割り込み足踏みが続くパナソニック。楠見氏は、いかにして従業員26万人の巨大組織を再び成長軌道へ導こうとしているのか。楠見氏の人物像や思考回路に迫ることで、目指す経営の方向性を大胆に予想してみたい。

  1989年入社の楠見氏は、津賀一宏・パナソニック社長(64歳)と同じR&D(研究開発)部門の出身である。二人の年齢差は8歳に過ぎないが、楠見氏の結婚式には津賀社長が仲人としてスピーチを買って出るなど公私にわたってもつながりは深い。共に理論派であるというタイプの類似性も手伝って、楠見氏を「ミニ津賀」「津賀チルドレン」と呼ぶ社員もいる。

 社内では、リストラ専門の整理屋として実績を上げた人物として知られる。実際に、楠見氏は三つのリストラを主導している。

 まずは、テレビ事業部長としてプラズマテレビ事業を終息させたこと。次に、車載機器を担当するオートモーティブ社(AM社)社長として採算割れの欧州事業の縮小にめどを付けたこと。そして最後に車載向け角形電池事業を分社してトヨタ自動車との合弁会社プライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES)設立にこぎ着けたことである。

 特にトヨタとの合弁については、「タフな交渉をやり遂げたことから社長昇格の決定打となった」(パナソニック幹部)とみられている。旧三洋電機のルーツを持つ車載向け角形電池はかつての基幹事業だが、パナソニック単独では投資競争を生き残れないと判断しトヨタとタッグを組むことにしたのだ。

 津賀社長ら経営陣からすれば楠見氏は構造改革に片を付けた立役者である。一方の社員の間では、「お荷物となった旧三洋電機のリストラ処理をトヨタに押し付けることに成功した」「事業を終息させることは得意でも、事業を成長させたことはない」と散々な言われようである。

 津賀社長の寵愛を受けた津賀チルドレン、整理屋、頭脳明晰だが人望がない――。楠見氏の社内での人物評は必ずしも芳しいとはいえない。リストラ執行者としてのイメージが先行し、経営手腕に疑問符を付ける社員も少なくない。

 しかし、楠見氏に近い関係者の証言からは、そうした表層的な前評判を覆す「実像」も浮かび上がってくる。一体、楠見氏とは何者なのか。

 確信犯――。「政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為、またはその行為を行う人」を指すが、楠見氏は、まさに確信犯と呼べるほどの揺るぎない信念に基づいてパナソニックの破壊者になるかもしれないのだ。