9年前に成長ドライバーに据えられたパナソニックの自動車事業の迷走が止まらない。10月発足の新組織では、車載機器を担当する事業会社が“格下げ”となったばかりか、モビリティ領域を担当する組織は五つに分散されてしまった。電池を主軸に再挑戦するのか、手仕舞いするのか。楠見雄規次期社長はギリギリの判断を迫られている。特集『パナソニックの呪縛』(全13回)の第9回では、自動車事業“再建”の秘策を探る。(ダイヤモンド編集部 浅島亮子、新井美江子)
自動車参入を甘くみたパナソニック
トヨタの「原価低減・人事」への執念とギャップ
2020年4月、トヨタ自動車とパナソニックが車載向け角形電池の合弁会社、プライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES。出資はトヨタ51%、パナソニック49%)が操業を開始した。それから一年。親会社の製造に関する“思想の違い”が不協和音となって聞こえてくるようになっている。
PPESはトヨタが主導権を握る会社である。トヨタは、ガソリン車製造で培った「トヨタ流の原価低減」の考え方を電池採算にも導入しようとしている。電気自動車(EV)に占める電池原価の割合は4割と大きいだけに、電池のコスト削減が重要であると考えているのだ。
トヨタのコストダウンに対する執念はすさまじい。あるPPES社員によれば、「トヨタは電池部材メーカーに対して『トヨタと仕事をするからには原価低減は絶対条件。トヨタに製造現場や部材の原価をフルオープンにせよ』と極めて高い要求を突きつけている」という。
トヨタがベンチマークにしているのが、世界最大手の電池メーカー、中国CATL(寧徳時代新能源科技)だ。早い話が、CATLが採用している(部材からの)納入価格と同等まで価格を下げよと部材メーカーに言っているようなものだ。
このトヨタの強気なやり方に、パナソニック出身者は「トヨタが自動車部品で磨いてきた原価低減の方法はケミカル製品である電池には通用しない。品質と価格と運搬コストの三つのバランスが取れていない」と納得がいかない。
トヨタはコストを最優先して部材を調達し、量産体制を築きながら品質を上げて最後に帳尻を合わせようとしている。品質最優先のパナソニックとは根本的に考え方が違うのだ。
トヨタとの合弁事業を通じて、パナソニックは改めて自動車事業のハードルの高さを身に染みて感じていることだろう。トヨタが世界一の自動車メーカーとして君臨し続けられている大きな理由の一つに、このいやらしいまでの原価低減に対する執着があることは間違いない。
もう一つ、トヨタとの違いがあるとすれば人事である。トヨタ出身のPPES社長は豊田章男・トヨタ社長の元秘書で、電池製造に関しては門外漢に近い。それでも「このポジションで実績を上げなければ出世の芽が摘まれる。徹底的な原価低減でPPESを軌道に乗せたいと思っているのだろう」(パナソニック関係者)。働きぶりと出世がしっかりと連動している。
トヨタ社員のコスト削減と出世に対する執念・執着が、トヨタの競争力につながっているのも事実。
その点、パナソニックにはトヨタほどの厳しさはなく、“甘ちゃんぶり”が否めない。
2013年に、津賀一宏・パナソニック社長は自動車事業を成長ドライバーとして据えた。だがそれから8年、10月に発足する新体制では、自動車事業は切り売りされてもおかしくない「外様部隊」に格下げされてしまった。
低収益が続く自動車事業を身売りするのか。それとも、再び投資を拡大して再挑戦するのか。早晩、新体制を率いる楠見雄規・次期社長は、ギリギリの決断を迫られることになるだろう。
実は、パナソニックが自動車事業を再建に導くための“ある秘策”がある。