ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
しかし、「よそ者リーダー」がどのように
チームを率いるべきかについては、OJT(現場で
やりながら身につける)しかないのが現状でしょう。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、組織を率いるすべてのリーダーに不可欠な
「絶対的資質」についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)

「よそ者リーダー」の教科書、著者の吉野哲氏による、「よそ者」に必要とされる資質とはPhoto: Adobe Stock

「謙虚」とは、
「ひたすら低姿勢でいること」ではない

経営トップである社長を務める者に、もっとも必要とされる資質とは何か――。

私は何よりも、「謙虚であること」だと考えています。

ここで言う「謙虚」とは、「ひたすら低姿勢でいること」「ただ慎ましいこと」という意味ではありません。その根底に「自分自身の確固たるポリシーや理念」を持っていることが大前提。

その上で、次の4つの姿勢が求められます。

1.役職や年齢に関係なくすべての人に等しく接し、その声に耳を傾ける姿勢
2.自分と違う意見や相反する考え方を否定せず、真摯に受け止める姿勢
3.知らないことはもちろん、多少知っていることでも、改めて教えを請う姿勢
4.常に自分を振り返り、自分に足りない部分を知り、認める姿勢

つまり、謙虚とは「人としてのあり方」のことなのです。

トップのこうした姿勢が周囲との調和を生み、人を引き寄せ、コミュニケーションを活発にし、組織の風通しをよくします。そうすれば必要な情報も集まりやすくなる。

とりわけ社外から派遣される“よそ者社長”や、カリスマではない“凡人社長”にとって、こうした謙虚さは何にも増して不可欠な資質になります。

また、自分に欠けている部分を自覚し、他者に助けてもらうべき部分が明確になれば、経営にプラスになるだけでなく、自身のステップアップにもつながります。

つまり、謙虚さとは資質であると同時に、社長にとって武器でもあるのです。

とはいえ、なかには役員や従業員に対してあいさつもせず、仏頂面で椅子にどっかりと座って、高圧的な口調で、のっけから周囲を威圧するような態度を取る社長もいます。

企業規模の大きな親会社だからできた制度や仕組みを持ち出して比較し、「この会社はこんなこともできていない」「この程度の仕組みも整っていない」と、あからさまに見下した態度を取る人もいます。

「謙虚になる」のは想像以上に難しいもの。社長という肩書や立場、プライドが邪魔をして謙虚になれない、“よそ者”であるがゆえに虚勢を張ってしまい、謙虚さを忘れてしまうといったケースが少なくありません。

誰よりも謙虚であるために
誰よりも自制心を持つ

ただ、外部から来た“よそ者”がそうした言動に走りがちな心情もわからなくはありません(単に横柄な性格で態度が悪いだけというのは論外ですが)。

たった一人で乗り込む新天地で「舐められてはいけない」という警戒心や自己防衛の思いから、上から目線の発言をしてしまう。責任の重さへの不安を押し隠そうとするあまり、能面のように無表情になってしまう。

自分が「外様(よそ者)」なのも、その会社の業種が自分の専門外ならば「何も知らない素人」なのもまた事実。それゆえ、つい「上から目線&命令口調」でマウントを取りたくなる。こうした事情もまあ、理解はできます。

でも、だからといって先手を打って威嚇しようと考えるのは感心できません。

組織のリーダーには自らの「攻撃的な感情」を抑える自制心も求められます。

たとえそれが、舐められたくないという「防御のための攻撃」であっても、です。

圧倒的なカリスマでもない「普通の人、凡人」がいきなり威圧的な態度を取ったところで、ただ「感じの悪いイヤなヤツ」と思われるだけ。

いきなり上から頭を押さえつけるような態度を取れば、従業員は萎縮し、警戒し、身構えてしまいます。そこで生まれた不満はすぐに反発に変わります。その結果、舐められないどころか、「敵視」されることにもなりかねず、これでは経営の再建や改革などうまく進められるはずもありません。

アウェーに乗り込む“よそ者社長”が従業員の警戒心というコートを脱がすには、北風で吹き飛ばすのではなく、太陽のように調和の姿勢で臨むべきなのです。

だからこそ、誰よりも自制心を持ち、誰よりも謙虚さを忘れない。それが会社のトップに立つ者、特に外部から来て社長を任された者の「絶対的な資質」と心得てください。

※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の第1回も併せてご覧いただければと思います。

次回は、よそ者リーダーが目指すべき「リーダーシップのスタイル」についてお伝えします)