「専門知識」という“落とし穴”

 では、どうすればよいか?

 これは「プレゼンの基本」ですが、「概略→詳細」の順番で話すことです。

 いきなり「詳細」の話をするのではなく、まずは、ざっくりと「概略=商品の本質」を理解してもらうようにして、お客様が「概略」を把握されたことを確認したうえで、一歩ずつ「詳細」を掘り下げて説明していく。このプロセスを意識することで、お客様の反応はかなり変わってくるはずです。

 ただ、これが意外と難しい。

 なぜなら、営業マンには専門知識があるからです。

 専門知識があるだけに、「それって、要するにどういうこと?」と聞かれても、「あれもこれも説明しなければ正確ではない」という思考にはまってしまって、「詳細」の話をしてしまう。その結果、素人であるお客様には、よくわからない話になってしまうのです。

 だから、営業マンが知恵と時間と労力を注ぐべきなのは、「概略」をいかにわかりやすく伝えるかを考えることです。もちろん、「詳細」を説明する資料に万全を期すのは当然ですが、一回それを作り上げれば、あとはそれを使い回せばいい。それよりも、日々の営業活動でお客様の反応を見ながら、「どうすれば、もっとズバッと概略を伝えられるか?」を追究するべきなのです。

「理屈」ではなく、「絵」で伝える

 僕も、これには試行錯誤を繰り返しました。

 そして、辿り着いた結論は、「『理屈』ではなく、『絵』で伝える」というものです。

 お客様が頭のなかで「絵」として描けるようなストーリーとして、「商品の概略」を伝えるのです。語弊のある言い方かもしれませんが、子ども向けの本に「絵」「写真」「図解」がたくさん載っているのと同じことで、素人であるお客様に直観的に「商品の概略」を掴んでいただくためには、「絵」で伝えるほうが圧倒的に効果的なのです。

 例えば、僕がよく伝えたのはこんな話です。

「あなたと、奥様とお子さんが、三人でボートに乗って大海原に漕ぎ出したとします。

 もちろん、オールを漕ぐのは、家族のなかで一番力持ちであるあなたです。海が荒れたときも、逆風のときも、愛する家族のために、力の限りを尽くして漕ぎ続けるはずです。

 でも、あなたが海に落ちてしまうこともありえます。そうすると、その先は、奥様とお子さんでボートを漕いでいく必要がありますが、あなたですらたいへんだったのですから、ご家族にとっては辛く厳しい旅になりますよね。

 ところが、漕ぎ手が1000人もいる大きな客船に乗っていればどうでしょう? もしも、あなたが船を漕げなくなっても、まだ999人の漕ぎ手いるんですから、船は変わらず進んでいくでしょう。そして、奥様とお子さんがたいへんな思いをすることはありません。

 保険は、その船の乗船券のようなものです。

 そして、船のチケットにも種類があります。例えば価格が安めのチケットは、65歳になって目的地に到着したら『おめでとうございます』と船から降りるというチケットで、もう一つのチケットは、お値段は高いけれども、65歳を過ぎてもそのまま船に乗り続けることができるし、65歳で下船した場合には、今までお支払いしたチケット代金を全て受け取ることができるものです。それが、『掛け捨て』と『終身保険』の違いです。さらに、それらを組み合わせることも可能です……」

 このようにお伝えすれば、お客様は頭の中で「絵」を描きながら、「掛け捨て保険」と「終身保険」の商品特性の違いを直観的に把握してくださいます。これを「理屈」で説明しようとすると、ややこしい話になってしまいますが、このように「絵」で伝えれば、100%のお客様に一瞬で理解していただけます。

 だから、僕は、このような「絵」に描けるストーリーを、いくつも考え出してストックしていました。それらのストーリーが、僕の営業力を大きくバックアップしてくれていたのです。

 重要なのは、営業マンは、売っている商品の専門家であるがゆえに「限界」があることを認識することです。専門知識がなければ営業マンは務まりませんが、その専門知識に縛られていてはお客様に商品についてわかりやすく説明することができません。専門知識のないお客様の立場になって、どのような「絵」を描けばわかりやすいかを徹底的に考え抜く必要があるのです(詳しくは、『超★営業思考』に書いてありますので、ぜひお読みください)。