日本人に多い2型糖尿病の治療にもつながる可能性

Q:新生児糖尿病/DEND症候群の研究はどのように大人の糖尿病とつながっているのですか。

A:新生児糖尿病/DEND症候群の患者の日本人2型糖尿病への応用の可能性は、日本人にみられるKATPチャネルにおけるE23K遺伝子多型(Kir6.2 の23番目のアミノ酸残基の遺伝子多型)のメカニズムにより説明できます。

 この遺伝子多型と糖尿病の発症の関連を示すメカニズムは長らく不明でした。しかし、今年になって私のオックスフォード大学での上司であり恩師である、フランシス・アッシュクロフト教授らがその謎を解明しました。

 E23K型KATPチャネルを有する遺伝子改変マウスを使って、このマウスが高脂肪食負荷で肥満を呈するとKATPチャネルの閉まりが若干悪くなることで、インスリン分泌が低下して血糖が上昇することを明らかにしたのです。

 つまり、日本人に多いE23K遺伝子多型を有する糖尿病患者の病態は、新生児糖尿病の病態と同じくKATPチャネルの閉鎖不全に基づくインスリン分泌障害である可能性があります。

 ですので、新生児糖尿病の子供たちの病態機序の解明は、多くの通常の日本人糖尿病の病型のカギとなっているといえます。この患者さんたちを救うべく研究することは、日本人の6人に1人にみられる糖尿病患者のよりよい治療につながる可能性があります。さらに、新生児糖尿病の基礎研究を推進し、新生児糖尿病患者だけでなく、大人の糖尿病の治療にも貢献したいと願っています。

 これまで新生児糖尿病/DEND症候群の子供たちは、Ⅰ型の特殊ケースと思われ、インスリンを投与し血糖値を下げる治療をしていました。このような子供たちの中にはいったん症状が軽快してしまう場合がありました。

 これは、新生児糖尿病の病型分類の中でも最も軽傷で「一過性新生児糖尿病:TNDM」と呼ばれています。しかし近年になって一過性と思われていたこの病型の子供たちも成人に達すると、糖尿病を再発する場合があることがわかってきました。

 この場合、大人になってから再び糖尿病と診断されて受診する場合が考えられますが、患者の問診を注意深くする必要があります。もし生後6カ月以内に血糖が高いといわれたことがあったら、この患者は一過性新生児糖尿病かもしれません。その場合、最も効果的な治療法はSU剤である可能性があります。