「病気になったら、どうしようもありません。病気に限らず、何かあったら『立場のない人』として扱われることになります。同じ人間で、同じ社会に存在しているのに。とても重いことです」(Bさん)

 Bさんは、自身の状況を「重い」と表現する。痛みや苦しみというより、「見えない何かに押しつぶされそう」という感覚なのだろうか。

 Bさんと同時期に出身国を離れた友人たちは、オーストラリア・イギリス・フィンランドなど、さまざまな国に渡った。友人たちは、入国から半年で難民認定されたり、数年で国籍を取得できたりしている。移民の厳格化に転じたイギリスに渡った友人も、滞在5年でイギリス国籍とパスポートを取得できたという。

 国際社会の中で、やはり日本の状況は異様だ。しかしBさんは、「比べるものではないです」と筆者を牽制する。

「日本には、お世話になっている方々もいます。日本国民を見ていると、国民と法律が全く違うことを感じます。日本や日本国民を、悪く言いたくはありません」(Bさん)

 入管に収容されていた時期もあるBさんは、非人道的な扱いやハラスメントを目撃したこともあるという。でもBさんは、問題は日本の制度だと考えている。

「外国人に対する日本の扱いは、法律や政策が定めています。制度が変われば、状況は変わります。入管に対して抗議するよりも、怒って悪口をいうよりも、まず、在留資格の問題で苦しむ人がいなくなるように、日本国民で第三者の立場の方がいるところで話し合いをしたいです。『ビザがないから悪い』『いや入管が悪い』と言い合うのでは、解決にならないと思います」(Bさん)

 制度を変えることができるのは、選挙権を持っている日本国民や日本の住民だ。選挙で適切な国会議員に投票し、その国会議員を通じて法や制度を変えることは出来るかもしれない。しかし筆者を含め、日本国民の多くは、ほぼ何も知らない。まずは、知ることだ。

「5年ほど前、ボランティアの方に入管での経験を話した時、大変驚かれました。そこで気がついたんです。日本国民にとって、入管はブラックボックスなのだと」(Bさん)

 入管には収容施設があり、そこには外国人が収容されており、非人道的な扱いを受けている。ハラスメントが横行し、通信の自由もない。3月には、スリランカ人女性が収容中に亡くなった。このことから、理解と関心と共感は強くなりつつある。そもそも、誰かが命を落とす前に気づくべきなのだが、入管の中の出来事は、日本人の多くにとって「人ごと」だ。

 ともあれ今日も、住民としての最低限の権利を保障されていない人々が日本で暮らしている。高齢者もいれば、体が弱い人もいる。病気になっても、治療を受ける権利は保障されていない。「治療を受けられない」ということが、さらに精神的な負担を増幅させる。

「私も、虫歯や扁桃(へんとう)の不調を、何年もガマンしています。ボランティアの紹介があれば治療を受けられるのですが、どうにもならなくなるまでガマンしてしまいます。体の痛み以上に、メンタル的に……重いです」(Bさん)