お客様の「想い」がわかれば、
「道」が拓ける

 あるいは、こんなこともありました。

 ある二代目社長の方にお目にかかったときのことです。

 経営者に営業するときには、「生命保険が決算対策になる」ことを伝えるのが定石なのですが、その方は「決算対策」という言葉には全く興味を示されませんでした。このときも、僕は「これは難しそうだな……」とあきらめそうになっていました。

 ところが、会社経営の苦労話を伺っているときに、ある社員さんの話をされる様子が非常に印象的でした。

 その社員さんは社長さんと同期入社。非常に優秀な人物で、先代から事業を継承する大変なときに、全力でサポートしてくれたそうです。だから、できるだけ早く役員に引き上げて、長年会社を支えてくれた恩を伝えたいと熱く語られたのです。

 これで、僕は気づきました。

 こっちの思い込みで「決算対策のための保険」を提案したって意味がない。社長さんが求めているのは、これまで助けてくれた社員さんに感謝の気持ちを示すことなんだ、と。

 そこで、僕は、その方を役員に引き上げるタイミングで、役員保険に加入されてはどうかとご提案しました。会社が保険料を支払い、その役員さんに何かがあった時には、保険金を役員のご家族が死亡退職金として受け取ることができる保険です。役員さんが定年まで勤め上げたときには、解約返戻金を退職金にあてることもできます。

 この提案に、社長さんは「そんな保険があるんだね!」と大喜びをされました。これで、ご自分の「想い」を具体的な形として、その社員さんに伝えることができることが本当に嬉しかったようでした。そして、すぐに具体的な保険の設計をするように依頼してくださったのです。

“超一流の営業マン”がお客様と話すときに、意識を集中させている「意外なこと」とは?Photo: Adobe Stock 写真はイメージです。

「思い込み」で目を曇らせていけない

 これらのエピソードを思い返すと、改めて気付かされることがあります。

「思い込み」ほど怖いものはない、ということです。

 僕自身がそうですが、31歳の独身男性に営業するときには「若いうちに入ったほうが断然メリットがある」という「思い込み」がありましたし、二代目社長さんのときには「決算対策」という定石に囚われていました。そして、おふたりの反応が薄いので、営業をあきらめかけていたのです。

 これらの事例では、幸いなことに、お客様のリアクションによって、自分の「思い込み」の誤りに気づくことができましたが、もしかすると、これまでの営業で、「思い込み」に囚われて、お客様の微妙な「変化」に気づくことができずに、営業マンとしての仕事ができなかったケースもあったかもしれません。そう考えると、「思い込み」というものの怖さを改めて感じるのです。

 営業マンは無意識のうちに、「こういう属性のお客様ならば、こういうニーズをお持ちだろう」といった思い込みをもってしまいがちです。そして、そのために「目」が曇ってしまうことが十分にありうるのです。

 ですから、「無心」でお客様と向き合い、その微細な「変化」に集中することが大事なのだと思います。おそらく、名医と呼ばれる人々は、そのような「触診」をされているのでしょう。それは、営業マンにも求められる資質なのです。(詳しくは、『超★営業思考』に書いてありますので、ぜひお読みください)。