欧米の自由民主主義の価値観そのものを批判し始めてきた中国

 米国、英国など自由民主主義陣営は、中国の香港、ウイグル、チベット、内モンゴルなどでの人権侵害の問題を厳しく批判し、経済制裁を科してきたが、中国はまるで聞く耳を持たない。

 気になるのは、中国の批判への対応が、以前と違ってきていることだ。以前は、「中国流の理屈」をつけて「我々は民主主義、人権を守っている」と主張していた。

 香港については、若者を「暴徒」と決めつけて、「治安維持」のために取り締まっているのだと、その正当性を主張していた。言い換えれば、中国は民主主義のルールを守って対応しているといっていたのだ。

 ところが、国安法の施行から、中国は、民主主義の価値観そのものを否定し始めているのだ。

 中国は、米国などからの経済制裁を乗り切ったことで、自信を深めた。そして、次の段階へ進もうとしている。それは、端的にいえば「アヘン戦争」以前の中華の秩序を取り戻すことのようにみえる。

 以前から、中国は沖縄の領有権まで言及する時があった。それは「日清戦争」以降の日本の領土拡大を非合法としているからだ。今や、中国は「アヘン戦争」以降の欧米列強の中国進出まで否定するようになってきている。

 欧米列強がアジアを植民地化する前、中国と周辺の「朝貢国」の間で、平和な秩序が保たれて、うまくやってきたのだ。欧米は、自由民主主義を守れと言う。しかし、アジアは欧米に搾取されるばかりで、政治は腐敗し、貧富の差は激しく、何もいいことはないではないか。今こそ、我々自身の価値観を取り戻すべきだと考え始めているのだ。

 このように考えた方が、現在の香港、ウイグル、チベット、内モンゴルなどに対する中国の行動は理解しやすい。中国は、人権侵害をしていると思っていない。平和な秩序を再構築するために、当然の行動を取っているだけだと考えるようになったのだ。

 中国に対して、これまでのように自由民主主義という価値観を説いても、聞いてはもらえない。経済大国となった中国に、経済制裁も効果はない。今までのやり方では、中国と対峙できないと痛感せざるを得ない。