だけど、本連載で何度も書いてきたとおり、営業マンにとって大事なのは「目先の売上」ではなく、お客様との信頼関係という「資産」をコツコツと蓄積することです。たとえ、「目先の売上」を逃したとしても、その方との信頼関係さえ維持できていれば、いずれ契約をお預かりできるかもしれないし、どなたかをご紹介いただけるかもしれない。それこそが、営業マンの「生命線」なのです。

 であれば、小手先のクロージング・テクニックを弄して、お客様との信頼関係を傷つけるようなリスクは取るべきではないと、僕は考えます。そのほうが、長期的には利益をもたらしてくれるからです。

決断を「誘導」するのではなく、
決断を「サポート」する

 だから、あるときから、僕はクロージングを一切しなくなりました。

 例えば、先ほどのように、最後の段階でお客様が「もうちょっと考えたい」とか「他の商品も検討したい」などと、決断を引き延ばそうとされたときには、「どうぞ、もう一度じっくりと考えてください」とお応えするようにしたのです。

 ただし、僕は、保険という商品の価値を心の底から信じていますし、お客様の状況に合わせて考え抜いたプランをご提案をしていますから、強くお勧めする気持ちにはいささかの変化もありません。

 だから、決断に迷いを感じているお客様をサポートする必要があると考えました。

 決断を「誘導」するのではなく、決断を「サポート」するのです。こう言うと、言葉の綾のように思われるかもしれませんが、決断を「誘導」することと、「サポート」することは全く異なります。

 重要なのは、決断の主体はお客様であるという原則を死守することです。このポイントを踏み越えた瞬間に、お客様の決断を操作しようとする「誘導」に変質してしまう。道を誤ってしまうのです。

“超一流の営業マン”が、「クロージング」を一切しない深い理由写真はイメージです。 Photo: Adobe Stock

「期限」を切ることで、
決断思考にスイッチを入れる

 では、どのように決断をサポートしたのか?

 例えば、「期限」を切ります。誰でも高額商品の購入には慎重になりますが、あまりに優柔不断になってしまうと、いつまでも決断に踏み切れない事態に陥ってしまうこともあります。保険は加入するのが早ければ早いほど有利ですから、最悪の場合には、お客様が不利な条件で契約せざるを得ないことだってあるわけです。

 そこで、「今晩じっくりと考えてください。そして明日にはご連絡くださいね」などと期限を切るのです。

 あるいは、「妻ともよく相談してみたい」とおっしゃる場合には、「僕もそうですが、普段、妻とこれからの人生についてゆっくり話し合うことなんてないですから、奥様とじっくり相談されるのはとてもよいことだと思います。ただ、生きている限り、明日になったらまた違う状況が生まれていますから、今晩中に話し合わないと、話し合うことすらしなくなりますので、今晩中にお願いします」などとお話しします。

 もちろん、いつでも「明日まで」と言うわけではありません。当たり前のことですが、「期限」はお客様が置かれている状況を踏まえて、ケースバイケースで設定してお伝えします。

 重要なのは「締め切り」を設けることです。仕事もそうですが、人間というものは「締め切り」を設定しなければ、あれこれと考えすぎて迷走しがち。「締め切り」を決めることによって、「決断思考」にスイッチが入るのです。