中国は「個性ある消費」へ
ザリガニ人気の背景は

 なぜ、急にザリガニ消費が伸びてきたのだろうか。要因はさまざまだ。

 まず第一に、インターネットの影響がある。

 たとえば、中国版ツイッター「微博」では、スーパーで売っているザリガニ麺を食べる実況動画が人気になっていた。動画投稿者は袋からザリガニを出し、温めて調理するところから、殻をむいて食べるところまでのプロセスを撮影していた。、かなりおいしそうに見えたので、筆者も一度買ってみようかなという気持ちになった。

 現在ネットスーパーで人気を集めているザリガニは、「95後(1995年以降に生まれた世代)」の若者を中心に支持を集めている。彼らは買い物をするとき、実店舗ではなくインターネットを活用することが多い。また、この世代はいいものならすぐに買ってみるという傾向がある。若い世代を通じてネットで人気に火が付くというのが、ここ最近の鉄板である。

 この流れには前例がある。昨年「タニシ麺」という江西省のご当地料理がはやった。ネットでの販売が軌道に乗ったら、実店舗でも売り出されるようになった。ザリガニも同じ道を歩んでいるように思える。

 第二に、消費の多様化の影響だ。これまで中国人は「みんなが持っているもの」を買う傾向があったが、今は「特徴があるもの」を買う。

 食べ物についていえば、改革開放前のような「腹を満たす」だけの消費から「家では食べられないもの」を買う傾向が強くなった。コロナ禍のステイホームも「特徴があるもの」への探求心を刺激させた。

 たとえば、昨年、中国でコロナ感染拡大が緊迫していた頃、筆者もあまり外食をせず、よく出前を注文していた。だが、出前できるものは店で食べるよりも種類が少ないし、利用頻度が高くなれば飽きてしまう。前出のタニシ麺は、そうしたステイホーム中の食に飽き飽きした人々の心をつかみ、ヒットしたともいえる。

 ちなみに、筆者もタニシ麺を味わってみたが、普通の麺と違って臭みがある辛い麺で、中国料理を食べ慣れていない日本人の口に合わないかもしれない。だが面白いことに、数日したら、また食べたくなり、注文した。筆者のように「やみつき」になった人も多いのではないか。

 第三に、リバウンド消費の影響だ。中国経済は足元、昨年よりも良好なパフォーマンスを見せ、経済の成長エンジンの一つである消費も回復した。5月の「労働節」は春節の時のような大自粛令がなかったため、観光関連の消費が伸びたし、ネットショッピングでの消費も好調だ。

 「多様化した消費」の一つとして増えたザリガニだが、今が旬ということもあり、市場によく出回っている。旬が過ぎた後でも、コンスタントに需要があるかどうかは注目すべき点だ。

 そして、今、中国は伝統的なものも重視している。伝統的食べ物の一つであったザリガニの消費が増えたのは、改革開放以降の「外国製品崇拝」から「中国特有のものへの回帰」を表しているともいえるのではないかと思っている。