欧州ではコロナワクチンの接種拡大に伴い、観光地で人出が戻りつつある。EU加盟国は観光依存度が高いため、やや「前のめり」で渡航制限を緩和した格好だ。一方、ポストコロナを見据えると、欧州の観光業は経済的にも環境的にもサステナブルなモデルへのシフトが急務である。(丸紅経済研究所 経済調査チーム エコノミスト 堅川陽平)
ワクチン接種の拡大により
欧州の観光業に持ち直しの兆し
欧州では新型コロナウイルスの新規感染者数の減少に伴い、厳しい行動制限が段階的に緩和され、観光地で人出が戻りつつある。イタリアの「水の都」ベネチアでは、6月3日にコロナ禍以降、初めてクルーズ船が到着した。
また、航空関連情報を提供するOAG社によると、6月第2週の航空座席供給量が世界全体で前年比83.4%増となる中、スペインが678.8%増、フランスが336.0%増と欧州各国で著しく増加しており、前年の大幅減からの反動を割り引いて見る必要はあるが、航空機による移動の再開も本格化している。
欧州の観光業に回復の兆しが見える背景には、ワクチンの接種拡大がある。5月末時点のワクチン接種率(少なくとも1回以上接種した人の割合。以下同様)は、米国と英国ですでに5割を突破しており、当初両国より出遅れた欧州連合(EU)も4割弱に上っている(下図参照)。ワクチン接種拡大により、新規感染者数は急速に減っている。
そうした中、EU加盟国のクロアチアやギリシャなどは、EU域外を含む海外からの観光客の受け入れを4月から段階的に再開しており、直近ではスペインが6月7日に一部の国を除くワクチン接種済みの海外観光客(14日前までに欧州医薬品庁または世界保健機関が承認したワクチンの接種完了を証明)受け入れを開始した。
7月1日にはEU全体としてのワクチンパスポート(正式名称は「デジタルコロナ証明書」)の正式導入も予定しており、これによって証明書保有者はワクチン接種歴や検査・回復歴などをQRコード形式で一元的に証明できるようになる。ワクチンパスポートの具体的な活用方法は各加盟国の判断次第だが、一部の国はすでに6月から試験的に導入し、証明書保有者に入国後の自己隔離や追加検査の免除を認めている。ワクチンパスポートの運用開始により、渡航制限の緩和と相まって、国際的な往来再開の動きが一段と加速すると見込まれる。