尾身会長が突然「政府の手のひら返し」に
さらされた本当の理由

 この不思議を解明するポイントとなるのは「国民と政府の“前提”がどこで違うのか?」です。そこに隠された日本政府の“もう一つの見解”がありそうです。

(6)万が一オリンピックが中止に追い込まれたら、目も当てられないことになる

 という政府側の前提が国民に隠されているのではないかと、わたしは勘繰ります。

 根拠もあります。それまで政府が信頼を寄せてきた新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、オリンピック中止に言及したとたん、手のひらを返したように閣僚からの塩対応にさらされました。政府と医療責任者のゴールが呉越同舟だったのだと、あらためて気づかされる出来事でした。

 尾身会長は(1)の「医療崩壊を止める」を最優先のゴールに考えていたのだが、政府は(6)の「なんとしてもオリンピックを中止させない」ことを最優先のゴールに設定していたと考えると、この突然の対立の謎が理解できます。

 前述の(4)と、政府が密かに目指しているかもしれない(6)のスタンスは大きく異なります。(6)では「国民の安全」「経済の維持」よりも、「とにかく中止しない」ことに重点が置かれているからです。

 なぜ、ここまでオリンピックの開催にこだわるのでしょうか?万一、国民の開催反対の声が高まってオリンピックが中止になると、お上には困ることが二つあります。

 一つはIOCへの賠償金です。報道でも取り上げられているように、オリンピックを中止した場合、メディアへの放映権料の補償が大きいために賠償金が1兆円規模まで膨れ上がる可能性があります。

 そしてもう一つは、その責任を追及されることで現在の政治トップたちが今後の選挙で勝てなくなることです。この点で、国と東京都は利害が一致します。