李さんはアルバイトを通じて、日本で生活する外国人が増加する背景には深刻な人手不足が存在しているということを知った。日本政府は少子高齢化や人口減少の問題解決として、外国人の雇用を増やそうとしているが、「職場がこんな状況では、外国人が日本に定着するとはとても考えられません」と訴える。

 こうした行為は、厚生労働省の都道府県労働局が例示する「職場におけるパワハラに該当すると考えられる例」の中の「精神的な攻撃」に当たると思われるが、前出の杉本氏は「言葉のハンディを負う外国人は声を上げたくても上げられず、実態が表面化しにくくなっています」と指摘する。

参照:「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」 (mhlw.go.jp)

メール1本にも細心の注意

 某上場企業に入社した中国人男性の王さん(仮名)は、「客先にメールをするのにも、細心の注意を払わなければなりません」と話す。メールの内容をまず下書きし、その表現について「これで大丈夫だろうか」と何度も推敲する。時には親しい日本人の友人に、どのような敬語を使ったらいいか、アドバイスを求めることもある。

「こちらはまったくそういう気持ちはないのに、敬語がうまく使えないと、相手の日本人からは“偉そうな態度”だと誤解されてしまうのです」(王さん)

 たかだかメール1本の送信だが、冒頭の挨拶文から末尾の締めくくりの言葉に至るまで、ささいな表現でも相手の気分を害さないようにと、神経をすり減らせている。

 母国語を日本語としない人を対象にした日本語能力の認定試験に「日本語能力試験」があるが、日常的な場面で使われる日本語を理解することができる「2級レベル」を採用の基準としている企業は少なくない。しかし、2級レベルの日本語能力があっても、必ずしも日本人と円滑なコミュニケーションができるわけではない。