敬語や「てにをは」の習得は決して容易ではないため、日本人と同じように言葉を操るのは外国人にとって大変骨が折れる。10年、20年の在日歴を持っていたとしても、尊敬語、謙譲語を含めて日本語をネイティブ並みに使いこなす外国人材は決して多くはない。

 考えてみれば、私たち日本人の外国語もかなりいいかげんだ。仮に私たちがドイツに行き、わずか2年程度でドイツ語をマスターし、ドイツ企業に採用してもらうことができるだろうか。前出の杉本氏は「すべての外国人材に“高度な日本語”は必要なのでしょうか」と問いかける。採用した外国人材の日本語がたとえ“ブロークンジャパニーズ”だったとしても、結果を出せればいいのではないかという示唆でもある。

国際情勢が職場に落とす影

 2000年代の日本は、少子高齢化への対応や外国人材の受け入れが政策としてまだ本格稼働しておらず、過疎地でこそ労働者として迎えられてはいたが、都心部の企業で中国人材が働くのはまだ一般化していなかった。

 遼寧省出身の孫さん(仮名)は、当時入社したアパレル関連の中小企業をこう振り返っている。

「入社後にやらされたのは“お茶くみ”でした。トレイの上に大小さまざまなカップを並べ、そこに個人の好みどおりのお茶を用意するのですが、ある日、私は上司の好みを間違え、うっかり砂糖を入れたコーヒーを渡してしまいました、すると、ここぞとばかりに上司に責め立てられたのです」

 多数の中国人卒業生と接してきた都内私大のある教授は「ただでさえ、立場の弱い新人はターゲットになりやすく、上司のストレスのはけ口になりやすい。さらに近年は国際情勢が職場に影を落とし、中国人材はさらに不利な状況に置かれています」と話す。

 昨今、世の中の目が「パワハラ」に厳しくなる一方で、言葉にハンディを持つ立場的に弱い外国人材が死角に置かれてはいないだろうか。日本企業はもう一度社内を点検する必要があるだろう。