社長伊勢宜弘・藤田観光代表取締役兼社長執行役員 Photo by Toshiaki Usami

6月30日に大阪の老舗「太閤園」の営業を終了する藤田観光。2月に売却を発表した時は大きな話題を呼んだ。一方、東京のホテル椿山荘や箱根小涌園は、時代に合わせた投資を続けていく方針だ。伊勢宜弘・藤田観光社長に話を聞いた(ダイヤモンド編集部 柳澤里佳)

大阪・太閤園を売却
債務超過だけは避けたかった

――6月30日に大阪の老舗結婚式場「太閤園」の営業を終了します。2月、藤田財閥の財産である同施設の売却を発表した時は、大きな話題となりました。どのような経緯があって、決断に至ったのですか。

 新型コロナウイルスの感染が広がり始めた当初は、コロナ禍がこんなに深刻で、長引くとは思ってもいませんでした。2020年4月に銀行から200億円を借り入れていましたが、業績は月を追うごとに債務超過が心配になる状況で、夏過ぎから資本を増強せねばと動き始めたんです。まず金融機関、次に親密な取引先からの増資、最後は投資ファンドも含めて、資本増強につながる相手先を探し回っていました。

 資本が減っていく中で、11月に「Go Toトラベル」キャンペーンが始まり、特に神奈川県・箱根の施設は連日満室になるほど盛況でした。それでなんとか純資産は13億円残って20年12月期末を迎えることができ、債務超過にならずに済みました。

 ただ、21年1~3月期の業績を考えると、13億円じゃ全くもたない(編集部注:自己資本比率1.2%)。債務超過に陥るのは目に見えていました。さらなる資本調達に向けてほうぼう走り回ったのですが、金融機関が提示する条件は厳しく、親密先も渋る。ファンドの条件は観光業に対して非常に厳しい内容で、いろんなものを手放さざるを得なくなる可能性がありました。

 われわれが創業家の藤田家から受け継いだ三大資産は、東京のホテル椿山荘、箱根の小涌園、そして太閤園で、これを売却するのはどうかとシミュレーションしました。

 その中で、ある仲介者からお声が掛かったのが太閤園だったのです。200億円程度の資本増強になればと思っていましたが、(交渉の)結果、300億円強になると(注:太閤園の売却により332億円の特別利益を計上)。

 実は椿山荘の売却話もありましたが、太閤園は3月に売却が完了する。早期に資本回復できると分かったので、苦渋の決断でしたが、売却に踏み切りました。

――スピードを重視したのですね。

 債務超過になると、銀行や親密先との関係が今までとは違うものになってしまう。債務超過だけは絶対に回避したかった。3月末にクロージングするのは重要でした。一方、太閤園は婚礼を扱っているので、急に4月以降の予約分をキャンセルするわけにはいきません。売却先には「6月末までは使いたい」というわれわれの希望を聞いていただいた。

――報道では売却先が宗教法人の創価学会で、更地にした後、大きな「講堂」を建てるそうですが。