中国東方航空のラウンジの麺への批判が巻き起こしたブーム

 私が記事を書いた2年後の2017年6月に、中国東方航空(以下、東方航空。英語ではMU、中国では「東航」と略す)の上海出身の常連客・陸さんが、「東方航空さん、私たちにあの辣肉麺を返せ」という文章をSNSにアップした。

 陸さんも多くの乗客と同じように朝の飛行機便で出張するときは、早めに空港に到着して、東方航空が運営するラウンジで上海人好みの辣肉素鶏麺(以下、辣肉麺)を食べるのを楽しみにしていた。ちなみにここでいう「素鶏」は豆腐製品の一種だ。

 ところが、ある日、朝早く空港に到着した陸さんがいつも通りに辣肉麺を頼んだら、出てきたのは「辣醤麺」だった。つまり具だくさんの辣肉麺ではなく、具のない唐辛子ソースだけを載せただけの麺に一気にグレードが下がったのだ。

 中国の航空会社は遅延が非常に多い。乗客の不満に対して、航空会社はいつも天候に責任を転嫁したりしていた。航空会社のこうしたサービスにも不満を持っていた陸さんは、麺のグレード低下について、「空港ラウンジぐらいはお宅の管理下にあるだろう。遅延に対する心のないおわびより、辣肉麺一杯を出した方が、はるかに説得力がある」と主張して、「元のサービスレベルに戻れ」と求める意見を出した。

 この意見は多くの乗客の琴線に触れ、たくさんの賛同を得た。東方航空の関係部署もそれに気づき、その翌日から空港ラウンジでは辣肉麺が復活した。

 さらに、東方航空は転んでもただでは起きない。

 この世論対応をきっかけに、「東方航空のあの麺」といった意味の「東航那碗麺」というブランドコンセプトを打ち出し、宣伝に乗り出した。17年6月末から上海、西安、雲南、山西、甘粛などの空港VIPラウンジで「東航那碗麺」の提供を次々と開始した。ネットユーザーたちは様々なSNSで東航那碗麺に関する情報を発信し、より多くの旅行者が味わいに訪れた。

 上海の虹橋と浦東の2つの空港にある東方航空VIPラウンジだけでも、麺の供給量は1日約1万食に上り、東航那碗麺のブランドイメージがすっかり定着し、知名度も広がった。