序列激変#6Photo:PIXTA

弁護士業界に巨額の利益をもたらした過払い金の返還請求バブルが終焉。コロナ禍に伴う交通事故の減少で、売り上げ減に陥る法律事務所も現れた。特集『弁護士 司法書士 社労士 序列激変』(全19回)の#6では、アディーレ法律事務所やベリーベスト法律事務所など、過払いマネーで急成長した準大手・中小事務所のこれからの戦い方を探った。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)

過払いバブルで急成長後に
“自滅”したアディーレ

 2017年10月。かつて弁護士業界の風雲児として急成長したある法律事務所に、“死刑宣告”とすらいえる厳罰が下された。

 アディーレ法律事務所――。弁護士業界で生じた“過払いバブル”のさなか、大量のテレビCMを投下することで顧客を呼び込み、一躍名を轟かせた法律事務所だ。

 そもそも過払いバブルの発生は、消費者金融やカード会社が利息制限法の上限金利(15〜20%)と出資法の上限金利(29.2%)間の「グレーゾーン金利」と呼ばれる高金利帯で貸し付けを行っていたことに、端を発する。

 グレーゾーン金利を認めていた「みなし弁済」規定を、06年1月に最高裁判所の判決が事実上否定した。それに伴って、払い過ぎ、つまり過払いだった借金の利息を取り戻す動きが加速。利息返還請求訴訟の一大ブームに、アディーレは身を投じた。

 10年9月には、消費者金融の最大手にまで上り詰めた武富士が倒産。その背景にあったのも、大量の過払い金の返還請求を受けたことによる経営難であり、過払いバブルを象徴する出来事だ。

 過払い金案件を大量獲得し、アディーレは急拡大を遂げる。04年に設立されたアディーレの所属弁護士数は、11年時点での40人から6年で5倍近くまで膨らんだ。

 過払いが弁護士業界に巨額の利益をもたらした理由の一つが、利益率の高さだ。他の複雑な訴訟と違い、過払い金を巡る訴訟の争点はパターン化されていた。低単価の事務員にマニュアルを配り、弁護士と分業することで費用発生を抑えることもできた。

 だが、まさしくその過払い金を巡り、アディーレは“自滅”する。着手金を「1カ月限定で無料」とうたっていた広告を、実は5年近く続けていたことで景品表示法違反だと指摘を受ける。17年に所属する東京弁護士会から、2カ月の業務停止処分を下されたのだ。

 急成長から一転、アディーレは天国から地獄へと転落する。2カ月の業務停止とはいえ、法律事務所ならではのビジネスモデルであるが故に、まさに土俵際に追いやられることになる。