エンゲージメントの基本的な意味、
そして高めるためには

 ボーランド王子の城をつくった労働者たちが持っていたのは、雇用主に対するエンゲージメントである。企業であれば、会社に対する愛着心や思い入れ、帰属意識などと言われることもあるが、本来のエンゲージメントはさらに踏み込み、組織と従業員個人が一体となって互いの成長に貢献し合う状態を指している。そういったエンゲージメントの高い組織では、従業員が簡単に辞めることはなく、各人が意欲的に仕事に取り組むため生産性も向上。正の連鎖が起こり、顧客満足度や保持にもつながっていくのだ。

 そして、エンゲージメントには、「WIIFM」が重要であると、アンリ・ジャールは言う。WIIFMとは、「What’s in it for me?」の頭字語であり、翻訳すると「私にとってどんな意味やメリットがあるの?」という意味。プレゼンテーションの冒頭で伝えるべきとも言われているものだ。仕事は会社から与えられるだけではなく、従業員が主体的に考えられるようにならなくてはならない。WIIFMによって仕事を自分自身のことと捉えることができれば、好きなことに打ち込む時のように仕事に取り組むことができ、自然と創造性が生まれ、それによって成功し、さらに仕事が楽しくなる。従業員をそういったエンゲージメントの高い状態にするために、WIIFMは欠かせないものだという。

 加えて、WIIFMで従業員の意識を変えるだけでなく、経営層や上司も変わらなくてはならないと、アンリ・ジャールは続ける。辞めていく人たちが残す言葉で多いのが、「評価されなかった」「意見を取り入れてもらえなかった」「上司に興味を持ってもらえなかった」というもので、人は励まされ、認められていけば、仕事に対してやる気を出せるのだという。そのためには、従業員にある程度の権限を与え、能力を発揮できるようにして、仕事の目標を達成させていく必要がある。問題点を指摘し、ダメ出しを続けるような育て方では、エンゲージメントの高い従業員は育たないということだ。エンゲージメントの源泉となるのは、給与や待遇のよさでなく、仕事に対して認められたり感謝されたりすることということだろう。

エンゲージメントを高めるために必要となる3つの要素

 企業が生き残っていくには、常に成長・発展し続けていかなくてはならない。ビジネスの世界で成長しないということは、現状維持ではなく退行を意味するのだ。だからこそ、企業は従業員のエンゲージメントを高めてパフォーマンスを最大限に活かし、目標や課題を達成していかなければならない。

 注意すべきは、従業員を牽引する上層部やリーダーだけが理解しているという状態ではなく、自社の社会的な使命や役割であるミッションを全員が理解し、そのミッションのために社会的なニーズをとらえたビジョンを会社全体、組織全体、チーム全体で共有・遂行していかなくてはならないという点。そして、エンゲージメントを高めることだけが、組織のミッション・ビジョン・バリューを達成する鍵だという。

 では、従業員のエンゲージメント向上に必要なものは何だろうか。それは、次の3つである。

・理解度(Rational):会社の進むべき方向、ビジョンを理解し、共に達成しようとする姿勢
・共感度(Emotional):互いに仲間意識を持って協力し合い、家族のような愛着と誇りを持つこと
・行動意欲(Motivational):仲間との目標達成を最大のモチベーションとして行動する意欲

 これらがエンゲージメントを構成する主要素であり、すべてが備わっていることでエンゲージメントは向上してくとアンリ・ジャールは語っている。

 エンゲージメントの高い従業員は、自分のことのように会社の成功や発展を考え、愛し、成果を上げようと自ら努力する。指示や命令で高まるのでなく、経営陣と従業員の信頼の深さによって生まれるのがエンゲージメントなのだ。では次回は、新入社員を即戦力化させる取り組み「オンボーディング」についてのアンリ・ジャールの解説を紹介しよう。