コーポレートガバナンス・コードは自律的に使う

日置 コーポレートガバナンスの議論を形式的なものから実質的なものに転換して、企業の稼ぐ力、ひいては国益につなげていくためには、ここからもう1段踏み込む必要があると感じています。

橋本  そのためには、株主はもちろん、それ以外のステークホルダーともしっかり向き合っていかなければなりません。特に従業員です。

日置 従業員にしてみれば、CGコードの改訂にまつわる議論は、自分たちには関係のないものに見えているはずです。しかし、コーポレートガバナンス強化の目的は、株価を上げたり、配当を増やしたり、経営者の報酬を引き上げることではありません。結果的にそうなることは好ましいことですが、本来の目的は企業価値の向上であり、それを実現するための経営力や、それこそ「稼ぐ力」の強化です。その屋台骨を支えるのは従業員の貢献ですから、当然、従業員が仕事を通じて成長、自己実現をして、給与などのインセンティブを得るという好循環を生み出す仕組みが必要です。

橋本 まったく同感です。コードに書かれている行動準則や内部統制も、実行するのは従業員ですから、現場を置き去りにした議論や施策では実体を伴った改革にはなりません。デュポンでは、企業としての価値観を浸透させて、すべての従業員がコアバリューに基づいて行動することに徹底的にこだわっていました。一人ひとりが自ら行動する組織をつくることが、結局は長期的な成長につながるからです。

日置 2回のコード改訂により、日本のコーポレートガバナンスも世界水準に近づいてきましたが、すべての原則を「コンプライ(遵守)」すればいいというものでもありません。自社にとって最適なガバナンスのあり方を突き詰めた結果、投資家を納得させる「エクスプレイン(説明)」をしてもいいし、場合によっては非公開化という判断もあるでしょう。

 SOX法が導入されたとき、アメリカでは対応コストがかかりすぎることと、経営の自由度が損なわれることを嫌い、株式を非公開化する「ゴー・プライベート」の動きが見られました。自律的に判断することが重要なのではないでしょうか。

 詰まるところ、CGコードは使い方次第なのです。制度対応ととらえればコストですが、うまく利用すれば会社を強くする契機にできます。

 たとえば、事業ポートフォリオの見直しやリソース・アロケーションについて、株主に明確に説明すべきであると明記されています。これを理由に、これまで社内でタブー視されてきた黒字事業の売却や大胆なリソースの再配分の議論がしやすくなることもあるはずです。ポートフォリオマネジメントにはライト(Light)サイドとダーク(Dark)サイドがあり、ダークサイドに落ちてしまうと、それはもはやリストラクチャリングであり、取ることができる選択肢は限られてしまいます。

 世界で戦う意思があるなら、今回の改訂を単なる新コード対応で終わらせるのではなく、利用できるものは利用してワールドクラスの構えを整えていくべきでしょう。もちろん、CGコードなんぞで言われるまでもなく、自発的に取り組んでいるに越したことはないですね。