突然、告げられた進行がん。そこから、東大病院、がんセンターと渡り歩き、ほかにも多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていくがん治療ノンフィクション『ドキュメントがん治療選択』。本書の連動するこの連載では、独自の取材を重ねてがんを克服した著者の金田信一郎氏が、同じくがんを克服した各界のキーパーソンに取材します。今回登場するのは前立腺がんを克服した演出家の宮本亞門さん。がん罹患について、宮本さんは「がんに罪悪感を持つ必要もないし、この世の終わりでもない」と強調します。(聞き手は金田信一郎氏)。
■宮本亞門さんの「がん治療選択」01回目▶「宮本亞門氏、衝撃の前立腺がん発覚!「でも心は混乱しなかった」」
■宮本亞門さんの「がん治療選択」02回目▶「勃起は?尿漏れは? 宮本亞門さんが前立腺がんの後遺症を明るく語るワケ」
■宮本亞門さんの「がん治療選択」03回目▶「前立腺がん克服した宮本亞門氏「治療の決断、自分の軸を持つことが大事」」
――宮本さんは、過去に受けたインタビューの中で、前立腺がんになってから「一人で考える夜が増えて、非常につらい」と話しています。
宮本亞門氏(以下、宮本) 一人で悩む夜って、人それぞれで違うとは思いますが、僕の場合は、夜、星を見る。星空を見ながら、真っ暗な宇宙の中に、一人ひとりが命綱を切られて漂っている。そんな感覚で、ベッドの中の真っ暗闇の中に落とされていく。
もう、みんなに会えないんじゃないか。みんなが生き生きと生活を送っているのに、僕はまったく別の世界で生きることになるんじゃないのか。そんな孤独感が広がっていくんです。結論が出ない問いを繰り返し問うてみたり、妄想が膨らんだり……。
そのときに僕がよく思い出すのは、自分が「ステージ4ではない」と分かったときのことです。そのときの喜びと、「もう1回生きてみよう」と覚悟を決めたときのことは、今でも忘れません。「ステージ4の人たちは僕どころじゃないだろうな」という意味でも、一生懸命生きている人を心から尊敬できるようになりました。痛みや苦しみがある中で生きるのは壮絶だけど、それでも生きようとすることは素晴らしいと思います。
――そうしたことも含めて、宮本さんがよく使われる「もっとありのまままでいい」という言葉なんでしょうか。
宮本 がんになるって、何も悪いことをしているわけじゃない。だから、罪悪感を持つ必要は一切ない。一人で抱えるのは重すぎるから、医者や家族、友達なんかに気楽に話せるほうが気が楽になり、健康になる。周囲の人も、がんが「この世の終わりだ」と考えるのではなく、もっとフラットに、当たり前のように対応してもらえるといいんじゃないかと思います。
――がんを一度でも罹患すると、治ったはずでも、少し体に変調があると、「がんの再発ではないか」と不安になります。宮本さんも、手術後に血尿があって心配されたそうですね。
宮本 血尿が続いたときは、「うわ、これは何だ」と。実は、術後にできたかさぶたが取れて、尿に混じっただけだったんです。そのように、体調の変化をつい悪く捉えてしまうことは、どうしてもありますよね。
病院側から患者への伝え方も難しいと思いますね。医学用語を使われても、何か堅苦しくて、理解も難しい。同じ人間なのだから、もう少し語りかけるようにしゃべってもらった方が楽ですよね。そういう意味で、医師や医療スタッフとのコミュニケーションが大切です。
これまでは、患者が一方的に話を聞く感じが強かったけれど、がんは多分この先、死ぬまで付き合うことになる。そうなると、医師と患者が互いにコミュニケーションを深くしていくべきだと思います。