工藤氏は、災害が発生した直後から原因不明の不調を訴える患者が増えることから「災害不調」と名付けたという。直接被災した人だけでなく、家族・知人の被災や、災害関連のニュースを連日見ていることも災害不調の引き金になる、と工藤氏。

「災害不調を西洋医学に当てはめると“自律神経失調症”に該当します。自律神経には、日中の活動時に優位になる『交感神経』と、睡眠時やリラックス中に優位になる『副交感神経』があり、1日のうちに2つの自律神経が切り替わってバランスを保っています。しかし、災害時のように強いストレスを感じる状況下では、交感神経が常に優位になってしまい、不眠になったり、動悸(どうき)が激しくなったりと、常に緊張状態にあります。その結果、心身のバランスが乱れてしまうんです」

 さらに、交感神経が優位のままだと、血圧を上げる「アドレナリン」や血糖を上げる「コルチゾール」などのストレスホルモンが多く分泌される。そのせいで高血圧・高血糖の発症リスクが上がってしまうそう。

「また、自律神経失調症が長期間続くと、うつ症状が表れます。高齢者の場合は、自律神経失調症が数年間にわたると物忘れがひどくなり、認知症が進んでしまうケースもあります。現在のコロナ禍は外出自粛やリモートワークによって、人とコミュニケーションを取る機会が減っているので、脳を活性化して認知症を防ぐ“外部からの刺激”が得にくい状況。コロナ禍は認知症のリスクを高めてしまう災害でもあるんです」

 人と接する機会が極端に減ると、中高年でも“物忘れが増える”など、記憶力の低下が表れるという。そして、自律神経の乱れは加齢によっても引き起こされる。

「そもそも人間は38歳を超えると自律神経のバランスが崩れていきます。加えて30代後半は会社で責任あるポジションについたり、子育てに奔走したりと、ストレスを感じやすい時期。そこに大きな災害が重なれば、心身に不調をきたすのも無理はありません。もちろん、体調不良に重篤な病気が隠れているかもしれないので、不調の状況が普段と違うと感じたり、長く続くときは医療機関に相談してみてください。原因を探る必要があります」

 検査の結果で何も見つからなければ「自律神経が乱れているのかな」と、切り替えるだけでも、気持ちに余裕ができそうだ。

真面目で完璧主義な人は
災害不調になりやすい

 これまで多くの患者を治療してきた工藤氏は、災害不調に陥りやすい人の特徴についてこう語る。

「やはりストレスに弱い人ですね。コロナ禍をビジネスチャンスと捉えられる人は自律神経が乱れにくいですが、反対に脅威と感じている人は注意が必要です。真面目で完璧主義な人や、悲観的、プライドが高く変化を嫌う人は要注意。災害に強いストレスを感じるかどうかは、個人の性格や資質にも左右されるので、自身の性格やストレス耐性を知るのも災害不調の予防につながります」