今年7月の全国企業倒産件数(負債1000万円以上)が、7月としては半世紀ぶりの低水準となった。新型コロナによる未曽有の危機にもかかわらず、倒産が激減する理由は何か。(東京経済東京支社長 井出豪彦)
7月の倒産件数は
半世紀ぶりの低水準
東京商工リサーチ(TSR)によれば、7月の全国企業倒産件数(負債1000万円以上)は476件で、466件にとどまった1966年以来、7月としては半世紀ぶりの低水準となった。負債総額も714億6500万円で前年同月比29%減少した。
1966年といえば前回の東京五輪の2年後である。筆者はまだ生まれてもいない。最近「50年に一度の豪雨」などというフレーズを毎年のように聞くが、これは正真正銘の半世紀ぶり。とんでもないことが起きたのは間違いない。
実は7月だけが特別だったというわけではなく、コロナ禍で企業倒産は異常なほど減少している。同じくTSRのデータだが、昨年4月から今年3月まで1年間の倒産件数は7163件とこれまた「30年ぶり」の8000件割れとなった。30年前といえば、ジュリアナ扇子が舞い狂っていたバブル期だ。ニキビ面の高校生が中年太りのくたびれたおじさんに変貌してしまうほどの長い期間である。
テレビでは相変わらず朝から晩までコロナのニュースで、緊急事態宣言が繰り返されるたびにインタビューに応じた飲食店経営者が「このままでは経営が成り立たない」と怒りともあきらめともつかない表情でコメントするのがお決まりのパターンだ。ところが、倒産件数を見る限り、世の中の会社はおおむね資金繰りがラクということになる。
これは一般市民の肌感覚とは大きな乖離がある。もちろんGDPの落ち込みなど景気の現状とも合致しない。経済学の教科書的にいえば、企業倒産件数は景気動向を反映するはずだ(先行指数か遅行指数かは議論があるようだ)が、まさかいまが半世紀ぶりの好景気のわけがない。
いったい何が起きているのだろう。今回は倒産取材を20年余りやってきた経験を踏まえ、コロナ禍での半世紀ぶりの倒産減少という歴史的現象について個人的に思うところをまとめてみたい。