ソニーやディズニー、AOLなどを経て、アップル米国本社のマーケティング担当ヴァイス・プレジデント(副社長)兼日本法人代表として活躍し、現在は人々の感性を磨き、学びを助ける事業(株式会社リアルディア)を展開している前刀禎明氏が、『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』を発刊した。ビジネスシーンではさまざまに学びの重要性が叫ばれているが、同氏は現行の日本市場を見て、「学び」についてどう考えているのだろうか。(ライター 正木伸城)
正解を求めるのではなく
自分なりに観察し、考える
――前刀禎明さんの職歴を見ると、ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニーなど、そうそうたる企業名が出てきます。アップルでは米国本社の副社長まで務められました。ですが、ご著作『学び続ける知性』を読むと、決して優等生ではなかったことが伺えます。
学校の勉強は苦手でしたね。特に、歴史の年号を覚えるとか、目的もあまりよく分からず記憶だけを試されるような教科が苦手で(笑)。もちろん数学や物理にしても、公式があって覚える必要はあるのですが、自分で考えて課題を解く分、学びは楽しかったんです。たとえば図形の問題って、補助線を一本引くだけで解けたりするじゃないですか。そうやってビジュアルで物事を考えるのが好きでしたね。
今もテキスト情報は苦手です。大量の文字情報に触れたら疲れてしまうし、書くのもそれほど得意じゃない。だから、Instagramの投稿くらいが僕にとってちょうどいいんです。
――たとえば前刀さんのInstagramでは、雲の画像に言葉を添えて投稿がなされていますね。
そこに長文を載せろと言われたら、僕には無理です。ただ、物事を多面的に見ようとすることにはワクワク感を抱きます。雲だって、形からいろいろなものが想像できますよね。道端に咲いている花だって、見る視点一つ変えれば、いろいろな顔を見せてくれる。「こんな一面を持っていたのか」という驚きが、「学び」です。暗記型の教育はもちろんそれで大事なのだと思いますが、むしろそういった気づき、イマジネーション、物事を関連づける力が、特に今の時代、大切になってきています。
「これからは見通しが立たない、正解がない時代だ」って、近年よく言われますよね。本書のタイトル『学び続ける知性』の定義を「正解を求めるのではなく、自分なりに観察し、推測し、考える姿勢」としたのには、そういった背景もあります。
――個人的には、先の定義の「正解を求めるのではなく」というところが気になりました。
世の中には、正解がある問いと、正解がないかもしれないけれど折々に最適な解を見いだしていくべき問いがあります。後者の問いに応じる場合に、正解にとらわれると、「普通はさ」「常識的に考えてさ」といったところで思考停止してしまいがちです。それでは、複雑化していく時代に対応できない。それまでの「普通」が通用しないのが「新しい時代」ですから。
未来が予測不能であることは、今回の新型コロナウイルス感染拡大でも明らかでしょう。そういうときには、自分から変わっていくスタンスが大事です。時代に応じて、自分自身を変えていく。自分が変化の始まりになる。その方が、世の中をおもしろく見ることができます。
――本書では、「ワンダーラーニング」のすすめが提唱されています。
ワンダーラーニングは僕の造語で、ワクワクしながら学ぼうという呼びかけになっています。先ほど雲や花の話をしましたが、今自分の目に見える景色の中にさえ、未知の世界や見方との出会いのチャンスが無限に広がっています。僕は、そういった未知を「発見」したときに、ワクワクします。ワクワクして、あれこれ連想します。「あれっ、あの雲、逆さまにしたらおもしろい形に見えるぞ」とか、「ここにこんなつぼみがあったのか。まるでSFに出てくる銃みたいだ」といった感じに、です。
学ぼうと思えば、実はいつでも、どこででも学べる。「自分なりに観察し、推測し、考える」機会は、あちこちにあります。
――そういった感性が、前刀さんでいうと、たとえば日本の「iPodブーム」の火付け成功に役立ったのでしょうか。