昨年12月、塾生6万人超の大手塾、臨海セミナーに対し、ステップや早稲田アカデミー、秀英予備校など19社が連名で業務改善を求めるという前代未聞の事態が明るみに出た。そこで問題視されたのは塾業界で横行しているとされる「合格者数の水増し」と「悪質勧誘」だ。「臨海セミナー事件」は氷山の一角なのか。特集『わが子にピッタリ!塾・予備校&家庭教師・オンライン教材選び』(全22回)の#1では、あなたの塾選びを惑わすその背景に迫る。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
「行き過ぎた勧誘活動があった」
“臨海セミナー事件”の顛末
「学習塾業界の健全な発展のためにお互い透明性のある競合関係のもとで切磋琢磨していくことで合意した」――。
昨年12月17日、神奈川県を中心に展開する大手学習塾、臨海セミナー(塾生約6万人)とステップ(同3万人)2社が、そんな共同声明を発表した。
経緯を知らぬ者からすると、「あえて声明を出すような内容か」と首をかしげることだろう。だが、この声明の裏には、子どもの塾選びを惑わす塾・予備校業界を取り巻く苦境と闇が隠されている。
共同声明に至る発端は、同月3日、ステップを幹事社に早稲田アカデミーや秀英予備校など19社もの塾・予備校が連名で、臨海セミナーに対し、その業務改善などを求める前代未聞の申し入れをしたことだ。
申し入れ書で非難されたのは、まずその営業手法。臨海セミナーは自らの塾生である中学生を通じて、成績優秀な同級生などへ模試の案内やアンケートを配布して個人情報をかき集め、その生徒や保護者の同意なしに勧誘に利用する一方、協力した塾生には金券などを渡している、というものだ。
臨海セミナーはこの20年で校舎数を5倍超に拡大し、売上高も右肩上がりだ。その快進撃の一因には、こうした強引な営業手法もあるのではないか、といううがった見方も他の塾で出ている。
さらには、入試直前に他の塾の生徒をその塾に在籍させたまま臨海セミナーの「特待生」としても勧誘し、その生徒が合格した際には臨海セミナーの合格実績としてもカウントしているのではないか、という「水増し」疑惑までも指摘された(臨海セミナー側は否定)。
その後の協議を経て両社は共同声明に至ったものの、その際、臨海セミナーは「営業運営方針」も同時にホームページ(HP)に掲載した。現在はHPに見つけることができないが、首都圏の塾幹部によれば、そこには以下のような文言が記されていたという。
「過去の合格実績について、これまで『自主基準』を公表してこなかったことで、一部誤解や疑問を招いたため、今後は透明性の確保に取り組みます」「個人情報保護法の精神を尊重し、特に未成年の生徒に依頼する情報収集については、その方法に十分留意します」、「一部行き過ぎた勧誘活動を反省し、ご迷惑をおかけした方々におわびする」
臨海セミナーは取材に対し、「2社間において、合意を行い、その結果として共同声明を発表しております。その合意内容には、今後、両社ともこの件に関してのメディアの取材をお断りするということが含まれております」と、メールで述べるのみだ。
塾関係者の耳目を集めた“臨海セミナー事件”はひとまず幕を閉じたが、その裏にあるのは、少子化などに伴う塾のサバイバルレースの激化という構造だ。実際、全国の学習塾の数は減少傾向にある。
そして、この生徒の奪い合いという構図は、「悪質勧誘」につながりかねないことは自明の理だ。
「目標未達成は悪!」「犯罪!」「戦犯!」「死!」……。
穏やかでない文言が巨大なフォントサイズで並ぶ。これは、首都圏の大手学習塾で各校舎長に配られた”実際”の社内メールである。
このメールには、現在の塾が抱える生徒獲得の苦境が凝縮されている。