中学受験において、各塾に張り出された難関校の合格者数に目を奪われがちだ。だが、その塾が子どもの今の学力や志望校に合っているかどうかは別問題だ。初めから生徒をふるいにかける入塾テストの有無や、「難関校よりも中堅校に強い」「特定の中学校に強い」など各塾それぞれに特徴や強みがあるからだ。そこで、特集『わが子にピッタリ!塾・予備校&家庭教師・オンライン教材選び』(全22回)の#13では、「関西」主要塾の合格実績を大分析。実力を明らかにする。その関西の中学受験関係者の間に8月、激震が走った。テレビにも出演する馬渕教室の中学受験部門快進撃の立役者、吉田努氏が電撃退職した理由とは――。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
最高峰・灘の合格実績で
角突き合わせる浜学園と馬渕
関西における難関中学受験塾の実力を測る指標が、首都圏のそれと違うのは、最難関校の灘中ただ1校への合格実績に集約されるという点だ。もちろん、灘中と同じ兵庫県の甲陽学院や奈良県の東大寺学園など他にも難関校はあまたある。だが、「灘中合格者数ナンバーワン」を懸けた戦いが難関中学受験をうたう塾の天王山と言っても過言ではない。
その灘中への2021年度の合格者数トップは、東のSAPIX(サピックス)と並ぶ西の名門、浜学園の96人だ。浜学園の灘中合格者数トップは17年連続である。ところが、そのすぐ背後に迫る塾がある。相次ぐ校舎新設で急拡大を続ける馬渕教室(運営はウィルウェイ)だ。その灘中合格者数は71人と、この5年間で倍増させ、前年度から14人伸ばした。
馬渕教室の急伸ぶりにライバル塾たちからは「SPICA(スピカ)の灘中合格者数14人をダブルカウントしているのでは?」という疑念の声が聞こえる。スピカは東京・自由が丘にある早稲田アカデミーグループの難関中学受験塾で、その「灘中合格対策平日講座」では馬渕教室とタッグを組み、馬渕教室の講師が派遣されているからだ。
だが、「スピカとダブルカウントになっている灘中合格者数は(スピカの合格者数14人よりも)かなり少ない」と、馬渕教室中学受験事業部部長の野澤剛志氏は言い切る。その上で「この数年、灘中出身の大学生を灘中志望者向けの『Nクラス』各教室に2人配置し、生徒の個別質問などに対応するチューター制度を導入したことが功を奏している。さらに、これまで6年生だけが対象だったNクラスを去年から5年生にも新設したことなどが結果につながっている」(同)と話す。
「馬渕教室には、数年後に灘中の合格実績で浜学園を追い越す勢いがある」と言うのは、関西の中学受験事情に詳しい植田教育研究所の植田実氏だ。「関西における中学受験塾の御三家といえば、かつては浜学園、希学園、日能研関西。現在の新御三家は、希学園の代わりに馬渕教室が入る」(同)。実際、関西における主要中学受験塾の合格者総数の推移を見ても、馬渕教室の勢いが見て取れる。
だが、ここにきて、その馬渕教室の疾走に「“黄信号”が突然、ともった」(関西の中学受験関係者)。
先月、関西の中学受験関係者の間に激震が走った。日本テレビの人気番組「世界一受けたい授業」にも出演経験があり、約20年にわたって馬渕教室の中学受験における快進撃の立役者だったウィルウェイ取締役の吉田努氏が、年度半ばにもかかわらず電撃退職。ライバル塾に移籍したのだ。