タリバンの中心は
イスラム神学校の出身者たち

 ただし、日本の報道では、せっかく民主化や自由化が進んでいた国から米軍が撤退したために、タリバンというとんでもない極悪のテロ集団が政権を倒して再び恐怖支配を復活させようとしているという構図でタリバンのことを語られることが多いが、それは必ずしも正確ではない。

 確かにタリバンの残虐行為は国際的に非難されてしかるべきだが、彼らの中心はイスラム教の神学校「マドラサ」で学んだ学生たちである。結成当時は内戦で混乱した社会の秩序や治安を回復することを目標として掲げていた。

 本質はテロリストではなくイスラム原理主義者流のいわば「世直し運動」だったのだ。多くの国民の支持を集め、各地の軍閥や武装組織、宗教指導者などを味方につけていったのである。

「タリバンとアフガンは一緒なのです。タリバンという考え方を持っている特別な人たちがいるわけではなくて、アフガン人自身がああいうような考え方なのです。女性の権利は認めない。アフガン人とはタリバンそのものなのです。そこをみなさんは大きく誤解しているところがある」

 先日、元駐アフガニスタン特命全権大使だった高橋博史氏がキヤノングローバル戦略研究所の緊急討論会でそんな驚くような指摘をしていた。

 もちろんアフガン人がすべてタリバンに属しているとか共感を覚えているということではなく、底流にイスラムの共通した価値観や考え方があるため、アメリカのように短兵急に同国で民主化や近代化を推し進めるのは極めて難しいという指摘だったと思う。

 さらに、タリバンが結成からわずか2年ほどで国土の大半を支配できた背景には、米CIAや隣国パキスタンの軍情報機関ISIが、政治的思惑からひそかに支援していたことが大きい。とりわけ、大国インドと対立するパキスタンは、アフガニスタンを自国の影響下に置くため、情報機関を使って資金や武器を提供していた。

 一方、アメリカ政府はタリバンが中央アジアの安定勢力になりうると考え、CIAを通じて彼らに大量の武器を供与した。ところがタリバンは過激なイスラム化を進めるだけでなく、国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディンまでをかくまうようになっていった。それが2001年の米同時多発テロにつながっていったのだから、アメリカにとっては悲劇的な大誤算となったわけだ。