米軍の撤退は
賢明な選択

 そう考えると、バイデン大統領の米軍を8月末までにアフガニスタンから撤収させるという決断は賢明な選択だとも考えられる。

 そもそもアフガン戦争は、2001年当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が、ろくな計画もないまま、同時多発テロの首謀者ビンラディンとタリバンを打倒するためにアフガニスタンを爆撃したことから始まったものだ。

 当初は怒りに燃えたアメリカ国民の大半がアフガン攻撃を支持したが、ビンラディン殺害に10年もの年月を費やし、巨額の戦費と数多くの米兵の犠牲が伴ったため、戦争の意義が薄れていった。アフガン情勢は泥沼化した。それにも拘わらず今まで撤退できずにいたのである。

 その間にアメリカの国家安全保障戦略は「テロの脅威」から「対中国、ロシア、イラン」や人類を脅かす「気候変動」に明らかにシフトしている。たとえタリバンが権力を奪還しても、地道な外交努力でアメリカの国益は大きく傷つかないだろう。

「アメリカのアフガニスタンへの関与の新しい章が始まった。それは我々が外交で導くものだ。軍事的な任務は終わり、新たな外交的な任務が始まる」

 記者会見でのブリンケン国務長官のこの発言は、バイデン大統領が好戦的な国防総省よりも国務省の外交スタッフを重視していることを雄弁に物語っている。

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 バイデン政権の国家安全保障担当大統領補佐官は国務省で経験を積んだジェイク・サリバンだし、CIA長官のビル・バーンズもベテラン外交官で元国務副長官だ。この顔ぶれを見ただけでもその傾向は明らかだろう。

 地政学の重鎮で元米国務長官や大統領補佐官も務めたヘンリー・キッシンジャーは、「為政者は常に現実を直視するリアリストでなければならない」と喝破している。

 アフガン撤退でごうごうたる批判の矢面に立たされたバイデン大統領だが、アメリカの国益を重視した現実的な判断を下したのではないか。アフガニスタンにあるアメリカ大使館の機能は、すでに中東カタールに移されている。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)