ハーバードビジネススクールのウィリー・シー教授は昨年9月、米製薬大手メルクの事例を取り上げた教材を出版した。米製薬会社の中では、新型コロナウイルスワクチンの開発に成功したファイザーやモデルナが大きな注目を集めているが、ワクチン開発競争から離脱したメルクに着目したのはなぜか。その理由を聞くと、未来のリーダーが正しい決断をする上でのヒントが見えてきた。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
ハーバードが注目する
米製薬大手メルクの決断
佐藤智恵 シー教授は2020年9月、米製薬大手メルクの事例を取り上げた教材「メルク:新型コロナウイルスワクチン」を新たに出版しました。メルクといえば、新型コロナウイルスワクチン候補の開発を断念し、ワクチン開発競争から離脱した企業です。ファイザーやモデルナが注目を集める中、なぜあえてメルクの事例を教えているのですか。
ウィリー・シー 私がメルクに注目した理由は二つあります。一つは危機下において企業のリーダーの決断がいかに大切かを学べることです。もう一つは、リーダーが正しい決断をするためには、科学技術の知識が不可欠であると教えてくれることです。
メルクは今年1月、新型コロナウイルスワクチン候補であったV590とV591の開発を早々に取りやめることを決めました。メルクが開発を進めていたウイルスベクターワクチンは、mRNAワクチンほど発症予防効果が高くないことが分かったからです。
私は、ケネス・フレイザーCEO(当時)は結果的に良い決断をしたと思います。ここで撤退するのはかなり難しいことですが、新型コロナウイルスの治療薬の開発に集中するという決断は正しかったと思います。