近年、会社や事業を取り巻く経済環境の変化が激しくなったことで、素早い決断や行動がこれまで以上に求められる時代になった。しかし、必要な情報を収集して頭を整理しても、いざ決断・実行の段になると一歩を踏み出すのは難しい。
そこで参考になるのが、誰でも「即断即決、即実行」ができるようになる効果的なコツをまとめた『ゼロ秒思考[行動編]』(赤羽雄二著、ダイヤモンド社刊)だ。本書は、累計34万部を超えるベストセラー『ゼロ秒思考』で紹介した「メモ書き」をベースに、ビジネスパーソンの「行動力」を高めることに力点を置いた1冊で、スピード感のある「決断力」と「実行力」を身につけるためのノウハウを丁寧に解説している。
今回は 『ゼロ秒思考[行動編]』より一部を抜粋・編集して、「仕事ができる人」になるための2つのトレーニングを紹介する。(構成/根本隼)
「全体観」が身につく効果的なトレーニングとは?
即断即決、即実行ができるようになるためには、全体観が必要だということはわかった。では、全体観はどのようにして身につければよいのだろうか。
これまで、上司や先輩に「仕事ができるようになるにはどうすればよいでしょうか?」という疑問を投げても、「経験を積めば徐々にわかるようになる」とか、「失敗を1つ2つしないと一人前にならない」という答えしかもらってこなかった方がほとんどだと思う。
しかし私は、その疑問に、「全体観を持つこと。そして即断即決、即実行できるようになること」だと答えたい。しかもそれを、無用な失敗の痛手なく実現できる効果的なトレーニングがある。それが今から紹介する「オプション」と「フレームワーク」だ。
決断する時に使えるツール「オプション」
「オプション」とは、取り得る施策を複数挙げ、比較し評価する思考法を指す。思考法というと身構えてしまうかもしれないが、紙1枚に書き出せる非常に簡単なものだ。
「オプション」は、日常生活での選択からビジネスでの重大な決定まで、我々が何かを決める際には必ず使えるツールだ。たとえば「年末年始の過ごし方」を考えてみることにしよう。
・自宅でのんびり過ごす
・実家に帰る
・ホテルで過ごす
などの選択肢をすぐに思いつくだろう。それを下図のようにしてみる。これが「オプション」の最もシンプルな形だ。
オプションを使いこなせば最善の手を選べる
主要な選択肢を挙げ、すばやく評価するスキルがあれば、見落としなく複数の施策を評価し、最善の手を選ぶことができる。後から「他にもっとよいやり方があったのではないか」とか、「このやり方でも悪くはないが、やや筋が悪かった。事前に気づくことはできなかったのだろうか」ということがなくなっていく。
「オプション」での思考が不十分だと、かなりの割合で最善を尽くせない。それどころか手痛いミスを犯してしまうこともある。
ビジネスであれプライベートであれ、人間の行動は「選択肢から選ぶ」という行為の連続だ。極論すれば、それがほぼ全てと言ってもよい。選択の精度を上げることの重要性は誰にでも理解してもらえるだろう。
物事を整理する手軽な「フレームワーク」
「フレームワーク」とは、物事を整理する枠組のことで、一番簡単で手軽なものは2×2の枠組になる。たとえば、溜まってしまった仕事の優先順位を整理する際に、やみくもにリストアップするのではなく、まず2×2の枠組に整理してみる。整理のしかたはいろいろあるが、仕事の優先順位なので、縦軸を「緊急度」、横軸を「重要度」で切り分けてみよう。
縦軸は「大」か「中」かどうか、横軸も「大」か「中」かどうかと分けることで、4つの場合に分類して全体を見ることになる。それが下の図だ。
「仕事の優先順位」をこのように分けて見ることで、
・何が何でも今すぐすべきもの
・大事だが、もう少し後でもいいもの
・そこまで大事ではないが、今すぐすべきもの
・今はあまり気にしなくてもいいもの
といった整理ができるようになり、一目瞭然になる。
いったん整理できると、あせって悪循環に陥ることがなくなり、自分の実力が発揮できる。最適な順序と時間配分で仕事に取り組めるからだ。
「フレームワーク」はこれ以外にも、問題点を切り分けたり、お客様をタイプ別に分類したり、新たな解決策を整理したりと、さまざまな場面で応用できるので、大変に便利だ。
仕事でも日常生活でも、「フレームワーク」での分類を素早くできるようにしておくと、やはりストレスが減り、生産性の大幅な向上が体感できるようになる。これが即断即決、即実行のベースとなる。
オプションとフレームワークを同時に使う
すでに気づかれているかもしれないが、「オプション」と「フレームワーク」は、それぞれ単体でも、即断即決、即実行のためのツールとして使うことができる。しかし同時に、「オプション」と「フレームワーク」を使うことは、あなたの全体観を育て、さらにレベルの高い即断即決、即実行へ導くトレーニングにもなる。
「オプション」は言うなれば、自分自身が取り得る選択肢の深掘りだ。対象となる問題を把握し、どのような選択肢が可能なのかを瞬時にリストアップしなければならない。そして同時に、取り得るそれぞれの選択肢が、自分にとってどのような意味や効果を持つのかを正確に理解しなければならない。
その繰り返しは、自分に何ができるのかという客観的な評価や、自分の価値観などを明確にしていく。自分の能力も内面も、全体観の一部になっていく。
全体に意識を配る習慣がつく
「フレームワーク」も同様だ。意義のある「フレームワーク」を作成する際には、対象となるものの部分だけを見るのではなく、常に全体を見て、そのうえでまた部分を見るという意識の切り替えが必要になる。その習慣が身につくということは、全体観を持つということとほぼイコールだ。
マッキンゼーをはじめとするコンサルティングファームの出身者には、比較的、即断即決、即実行をできる人が多い印象だが、それには、彼らがこの2つのツールに慣れているということが大きいと思える。決して地頭がよいから、即断即決、即実行ができるというわけではないのだ。