近年、会社や事業を取り巻く経済環境の変化が激しくなったことで、素早い決断や行動がこれまで以上に求められる時代になった。しかし、必要な情報を収集して頭を整理しても、いざ決断・実行の段になると一歩を踏み出すのは難しい。
そこで参考になるのが、誰でも「即断即決、即実行」ができるようになる効果的なコツをまとめた『ゼロ秒思考[行動編]』(赤羽雄二著、ダイヤモンド社刊)だ。本書は、累計34万部を超えるベストセラー『ゼロ秒思考』で紹介した「メモ書き」をベースに、ビジネスパーソンの「行動力」を高めることに力点を置いた1冊で、スピード感のある「決断力」と「実行力」を身につけるためのノウハウを丁寧に解説している。
今回は 『ゼロ秒思考[行動編]』より一部を抜粋・編集して、気持ちを全てはき出して心のモヤモヤを解消できる思考法「フレームワーク」について解説する。(構成/根本隼)
フレームワークを有効活用できている人は少ない
フレームワーク、特に2×2のフレームワークの存在は、多くの人が知っているだろう。ところが、頭の整理、物事の整理に実際に使ったことがある人はあまり多くないようだ。
知っていても使っていないし、自分の問題解決に使えるという人はさらに希だ。その証拠に、多数の大企業、ベンチャー企業の支援をしてきたが、自分からフレームワークをスムーズに使える人、有効活用している人にはほとんど出会ったことがない。
フレームワークは2×2が代表的
フレームワークは、2×2の枠組(マトリクス)が代表的であり、一番使い手がある。2×2でしっくりしない場合には、2×3、3×3、3×4などに拡げる場合もあるが、基本は2×2でかなりの程度まで表現し、活用することができる。
最初に身近で簡単な例から挙げてみる。「旅行したい海外の都市」を考えたとき、横軸を「地域」として、自分の関心が非常に強い「アジア」と「それ以外」に分けた。縦軸を「ねらい」として、「主に仕事」なのか、「主に観光」なのかによって分けて整理した。
その結果が次の図のような2×2フレームワークになる。書いてみて、自分の行きたい都市が4つの箱のそれぞれに1つ以上入っており、縦軸、横軸とも独立している2軸できれいに切り分けられているならば、一応合格点だ。
基本的なテーマから始めると良い
こんなことは書かなくてもわかると思われた方もいると思うが、このレベルの2×2フレームワークを2~3分で書ける人は10人に1人もいない。顧客とのミーティングなどで、課題整理のために目の前で書くと、ほぼ100%、驚かれたりうらやましがられたりする。
わざわざ整理しなくてもわかっていると思えても、慣れていないとほとんど書けない。わかっているつもりなだけだった、本質にはまったく迫っていなかった、ということが露呈する。
だから、皆さんには「旅行したい海外の都市」のように基本的なものからしっかりと書いて習熟してもらいたい。
仕事への応用編
比較的スムーズにフレームワークを書けるようになったら、次は仕事にも応用してみよう。
たとえば次の図は「経営課題の整理」をしてみたものだ。横軸は「重要度」で「大」か「中」、縦軸は「緊急度」で「大」か「中」で分けている。
「小」がないのは、経営課題はある程度以上重要で、かつ緊急なものを選ぶ必要があり、重要度小で緊急度小のものは優先順位が低いからだ。
重要度大・緊急度大(右上の箱)は、事業に最大の影響を与える「売上・利益改善」「新商品開発体制の整備」「執行役員選抜と育成」とした。「新商品開発体制の整備」は、重要にも関わらず後回しにされがちであるし、実際、新商品を早く市場に送り出すためにも今すぐ着手すべきなので、右上の箱に置き、注目し続ける必要がある。
「給与体系」の見直しは右下に置いた。重要であっても、先に打つべき手が多数あり、効果も徐々に出ることのほうが多いので、緊急度を考慮して右下が適切である、という経営的な判断だ。
「不採算支店の統合」「サービス残業の早期撤廃」は、業績全体への影響がそこまでではないものの、経営改革の観点から緊急に対処すべきと考え、左上に置いた。特に「サービス残業の早期撤廃」は、業績への影響度は直接的にはそれほどではないが、労働基準監督署に注意を受けては深刻な事態にもなりえるから緊急度が高い。
「人事面談変更」は業績全体への影響はそこまでではないし、それほど緊急でもないので、左下に置いている。
「部課長育成」は中期的に業績的に大きく影響するので大切であるものの、育成方法は一通りではないうえ、どうしても火急の問題を優先せざるを得ないので、よほどひどい状況でない限り左下に置かれがちだ。
モヤモヤする気持ちを整理して行動に移せる
簡単なフレームワークを書くことで、こういった深い議論が意外に簡単に、かつ詳細にでき、経営幹部の間でのすり合わせや共通言語の形成ができることになる。重要度と緊急度はとかく頭が混乱しがちだし、わかっているつもりでも話の流れで混同してしまうことが多い。うまく切り分けて全体観を共有しながら話すと、お互いの気持ちをすっきりとはき出していくことができる。
2×2フレームワークは、2つ以上のものを整理するときに大きな力を発揮する。ここで述べた例以外にもテーマはいくらでも考えられるが、フレームワークで整理した途端、問題点がはっきり見えたり、もやもやしていた気持ちが整理できて行動に移せるようになったりする。あるいは、これまで解決できなかった問題の糸口が勝手に浮かび上がってきたりする。
フレームワークに慣れるとイレギュラーな事態に動じなくなる
フレームワークを使い慣れていくと、何に対しても常に全体観を持てるようになり、あわてることがない。「何か見落としているかもしれない」「もっと何かあるのでは」といった心配もなくなる。突発的なことが起きても、ほとんど動じなくなる。その場でその瞬間に、何が課題でそれがどのくらい深刻か、何とかなりそうかどうかまで見えてくる。
そうなると、即断即決、即実行にどんどん近づいていく。全体観があるから、不安なく迷いなく進む方向が見える。
(本原稿は、『ゼロ秒思考[行動編]』から一部を抜粋・編集したものです)