「GDP のうちグローバル企業(G)が稼いでいるのは3割程度で、残りの7割を占める諸々の産業群こそが現代の基幹産業群であり、その多くは地域密着型(L)の中堅、中小企業、ローカル業が生み出しているものです」――。アフターコロナの日本を立て直すのはこうしたL型経済だと語る冨山和彦氏。カネボウ再生の立役者として名を馳せた冨山和彦氏と、大物経営者へ数多くの取材を重ねてきた稀代のジャーナリスト、田原総一朗氏が対談。忖度だらけの日本企業の人事、グローバル人材に必要なスキル、日立やオムロンの改革について語った。
日本は「高学歴」社会ではなく「合格歴」社会
学生時代に学んだことはどんどん古くなる
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。
田原総一朗(以下、田原) 日本では大学を卒業する20代前半以降、教育を受けないという人が多い。一方でOECD諸国やアメリカではそれ以降も社会人のための教育機関がある。
冨山和彦(以下、冨山) 海外ではマネージャークラスになるには、MBAなどの大学院の学位を取得することが前提になります。そのため大学を出てからもう一度、プロフェッショナルスクールに行きます。
田原 なんで日本ではそういう発想にならないのか。
冨山 終身雇用制の中ではマイナスに動くからです。もし転職できるスキルを身に付けさせると、転職される可能性が高まりますから。だからMBAを取ってやめられるより、社内でしか通用しないスキルの中に閉じ込めておいたほうが得なんです。
最初の5、6年間でまっさらな大学生を社会人として独り立ちさせるための投資をしていて、それを長期的に回収しようと思ったらMBAに行かせたら、やっと投資が終わったと思ったところで転職されてしまう。これは損だという発想です。
結局、日本型経営のメンバーシップ雇用では、会社固有のスキルを入社後に教育することが基本ですから、採用は潜在力をみればいい。だからそのシグナルとして「合格歴」が便利だった。変に大学で勉強して色のついた学生より、白地で素直で協調性のある若者が日本型経営では都合がいいんです。だから指定大学制の新卒一括採用での体育会系が好まれる。
日本共創プラットフォーム代表取締役社長、経営共創基盤(IGPI)グループ会長。1960年和歌山県生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。カネボウなどを再建。解散後の2007年、IGPIを設立。数多くの企業の経営改革や成長支援に携わる。
この国は高学歴(こうがくれき)社会ではなく、濁点場所違いの合格歴(ごうかくれき)社会なんです。だから産業の軸が本格的な知識集約型、個々人の独創的な思考力、発想力、判断力が基本の時代になったときに勝てなくなりました。
田原 僕ね、20年前にシリコンバレーでグーグルを取材したことがある。そこで、びっくりしたのは、創業メンバーや幹部クラスが仕事をしながら、大学の研究生をやっていることだった。アメリカでは、経営者も教育機関に行くのかと。これはすごいことだし、まず日本にはない発想だった。
冨山 いや、むしろそれが当たり前で、エグゼクティブ向けの人材が通うところもあります。40代、50代の人が行くような3カ月くらいの学校もあります。なんで、彼らが自分で通っているのかというと、知識のアップデートです。経済学、経営学、社会科学全般に言えることですが、自分が学生時代に学んだことがどんどん古くなるし、アップデートされるんです。昔の知識で経営やると、あっという間に古くなるから、それを学び直すんです。
田原 それが日本の経営者にはできない。
冨山 日本のトップ人材は世界的にみたときに学歴が低いんです。世界的にみたら、大半が東大出身だろうが、慶應出てようが、早稲田出てようが、学士でしかありません。シリコンバレーでは修士が標準で、その後博士号だって持っていて当たり前、ダブル修士、博士号と修士みたいなのもいるという世界です。そこでビジネスやっているような人たちからすれば、この人は勉強をしてこなかったと判断されても仕方がない。