トップ人事改革は、会社が大きく
変わるんだというメッセージになる

冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』 (KADOKAWA)冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』 (KADOKAWA)

冨山 たとえばオムロンでは、社外取締役だった私が委員長をつとめる社長指名諮問委員会で3年以上の時間をかけて山田義仁さんを社長に選びました。当時の立石義雄会長、作田久男社長らオムロンのトップマネジメント層は、創業者立石一真さんが定めた社憲を発展させ「企業は社会の公器である」という新しい基本理念を打ち出していました。

 そうした理念への共感と、ますますグローバル化とイノベーション力の勝負となる事業ドメインのなかで持続的成長を目指すために、本気で社長指名を中心とするガバナンス改革を進める一翼を担うということで、社外取締役を引き受けました。オムロンのような京都の企業は、東京よりも世界を見て仕事をしています。そのため世界で戦える企業体に変えよう、まさにCXを進めていこうというのが大きな目標でした。

 会長の立石さん、社長の作田さんも有言実行の人なので、社長指名については、通常の指名委員会とは別に社長指名諮問委員会をわざわざ作り、その委員長を当時まだ47歳だった私に任せたいということになりました。とにかく筋を徹底的に通す会社です。

 トップ人事改革は、会社が大きく変わるんだというメッセージにもなります。「新社長は49歳の山田義仁」と発表されたときに世の中には驚きがあったようですが、社長指名諮問委員会が明確なミッションを持ち、多くの時間とエネルギーを使っていることは社内の多くの人がご存じでしたから、山田社長への権力移行は意外とスムーズでした。

 オムロンの場合は、社長の条件については作田さんたち執行部と一緒に考え、候補の絞り込みとテストについては協働作業でしたが、最後の一人の選抜は作田さんの入っていない社長指名諮問委員会だけで行いました。このプロセスはIR誌で社外にもそのまま開示しています。

 3年にわたる選考期間の時期にリーマンショックもあって言わば修羅場に事欠かなかったこともトップ選びにはむしろ好条件だったのかもしれません。そして山田さんも大きな負託を担って今日に至るまで財務的にもオムロンの理念達成面でも立派な業績を上げています。

 実は山田さんが就任した直後、「10年後、次の社長がクリアすべきハードルはきっとさらに高くなるから、今度は10年がかりでトップ候補人材プールづくりを始めておこう」という話をして直ちに本格的な取り組みを始めました。私自身は2017年に10年間つとめたオムロンの社外取締役を退任しましたが、次の社長がどんな人になるか、そろそろ楽しみな時期になっています。

 立石さんは2020年の春、惜しくも新型コロナウイルス感染症で逝去されましたが、このような理念主導型のガバナンス改革が山田さんの次の世代にも継承されることが、立石さんの遺志を継ぐことになると思います。

>>後編に続く