米同時多発テロから20年の節目を迎えた今、米国の外交政策は奇妙な場所にいる。米国は中東を安定させられず、アフガニスタンの社会を恒久的に作り変えることも、ジハード(聖戦)に終止符を打つこともできなかった。ただ、2001年9月11日に並ぶ規模で米本土に再び攻撃を加えることをやりおおせたテロリストはいない。結果として「テロとの戦い」は米国政治の片隅に退いたが、一方で、リベラルな世界秩序が崩壊しつつあるとの懸念が浮上している。米政府の冷戦後の大戦略(グランド・ストラテジー)の柱となったのは、米国の支援の下、世界中で自由貿易や宗教色のない民主主義の統治を推進することにより、リベラルな国際秩序の構築を目指すことだった。米外交政策のエスタブリッシュメント(主流派)は今も、この戦略が米国の国益を確保する最善の道であるばかりか、人類が生き延びるための最大の希望だと信じている。核兵器の時代には、大国が互いに戦争を仕掛ける昔ながらのサイクルは人類全体の脅威となるため、終わらせなくてはならない。気候変動のように地球全体の問題は、有効な国際機関の設立を通じて対処するしかない。