注目はマイクロEV

 新興企業のブースで、とくに注目を集めていたのはマイクロEVだ。プロトタイプでも作り込まれた車両が多く、中には市販モデル、市販直前モデルなどもあった。ベンチャーやスタートアップが多いが、どれもアーリー後期、グロース期に差し掛かっていて、市場はまさに立ち上がろうとしている。商談は活気づいていた。

欧州の次世代モビリティ「マイクロEV」市場もやはり中国企業が圧倒Photo by Shinji Nakao

 ここでいうマイクロEVは、日本の超小型モビリティに相当する車両だ。規格はEUのL7eと呼ばれる最大定格出力15kW以下(約20馬力)の小型四輪車で、もとは二輪車のカテゴリーをベースに小型EVに拡張した。ドイツでは自転車の次にくるシティモビリティとして注目されているカテゴリーだ。

 EUの市街地では大型車や内燃機関が規制対象となっている。そこで、シェアリングカーやコミューターの利用が見込まれている。展示車両も貨物やシェアリングを意識したものが多かった。物流における、最終的な配送拠点から個人宅までのラストマイル輸送では、稼働率をあげるため充電待機時間を減らせる交換式バッテリーを採用するメーカーが多いのも特徴だ。マイクロEVのバッテリーなら、人力での交換も可能だ。業務用の電動台車や簡易フォークがあれば数分で交換できる。過去に失敗した乗用車・商用車のバッテリー交換方式はラストマイル系マイクロEVでは可能性があるという。

 市街地に乗り入れ規制があるため、シェアリングカーやセカンドカー・サードカーとしてのマイクロEVを提案する企業も少なくない。これらの企業のほとんどはドイツや東欧諸国のベンチャー企業だ。政府支援とクラウドファンディングによって2022年以降の本格的なビジネスを目論んでいる。

マイクロEV市場進出に積極的な中国企業

 マイクロEV市場で注目すべきポイントは、中国企業の存在だ。メーカーの多くはベンチャーであり、CEOや創設者はエンジニアが多い。クラウドファンディングなどで資金調達をするが、必然的にファブレスメーカーとなる。商品企画や設計はEUのエンジニアが行うが、製造・生産は中国企業が担っている。取材したXEV社、acm社、CITY TRANSFORMER社他、ほとんどが生産を中国に委託している。設計・デザインに投入市場のエンジニアと基準を適用することで、設備投資を抑えながら品質や安全を担保している。

欧州の次世代モビリティ「マイクロEV」市場もやはり中国企業が圧倒Photo by Shinji Nakao

 家電やスマホの生産拠点が中国であることはもはや常識だが、EVにおいても中国は世界の工場になろうとしている。以前から言われている中国の貿易戦略のひとつだが、欧州マイクロEVでも同じスキームが展開されていた。日本国内でもBYDのEVバスの採用が進んでいる。消費財としての乗用車は、ブランドやイメージが重要だが、生産財としての商用車は実用面やコストが重視される。

 佐川急便が導入する配送専用EVトラックも中国製造だ。間に日本のASFというエンジニアリング企業が入っている。企画・設計その他はASFが行い、品質と安全性の確保を行う。ドイツのマイクロEVと同じスキームだ。前述したベンチャーの一部は、日本の軽自動車市場も研究している。ヤマト運輸や佐川急便の動きも知っており、日本市場進出を目指す企業も少なくない。

 事業者向け配送車両の場合、市場で売る必要がないので製造台数=販売台数となる。メーカーとしては販売管理やマーケティングの余分なコストが不要で、流通在庫も考えなくてよい。日本ではトヨタを中心にトラックメーカーと軽自動車メーカーが、EV化やラストマイル輸送の協調領域を話し合うコンソーシアム(CJPT)が作られたが、ドイツではこの領域で、中国企業が存在感を示していた。