売れないかもしれないモノを
つくらなくても価値の提案はできる

「モノづくりより価値づくりを」と私が勧めるのは、ひとつ大きなメリットがあることも理由となっています。それは価値の「提案」はモノをつくらなくてもできるから、ということ。今はモノをつくる前から、価値を提案することができる時代なのです。その実例をいくつかご紹介しましょう。

 シリコンバレーで2013年に誕生したスタートアップ「DoorDash」(ドアダッシュ)は、フードデリバリーサービスを提供しています。現在ニューヨーク証券取引所にも上場する同社の創業者らは、設立当時はスタンフォード大学の学生でした。

 彼らは、最初は1枚の簡単なランディングページからビジネスを始めました。ページに近隣の何店舗かのレストランのPDFメニューを載せ、注文を受け付ける電話番号を載せ、実際に何か買ってきて欲しいという注文がどのくらい入るのかを試したのです。注文が入れば、自分たちで頼まれた料理を買ってきて自分たちで届ける、ということを繰り返し、人員不足で配達に時間がかかって苦情が来るほど需要があることを見極めた上で、より多くの人がサービスを利用できるような仕組みとアプリづくりに取り組みました。

 これが先に価値を提案し、価値の検証ができてから、必要なプロダクト(モノ)をつくっていくというやり方です。同じやり方で成功した企業に、靴のインターネット通販の先駆者として知られるザッポスがあります。

 従来、サイズ感や履き心地などが重視される靴は、オンライン販売には向いていないものとされてきました。しかし、ザッポス創業者のニック・スウィンマーンは「靴もオンラインで売れる」と仮説を立て、そのアイデアが正しいか確かめることから始めました。

 近所の靴屋で商品の撮影をさせてもらい、それをウェブに掲載。注文が入ればその靴を買ってきて配送する、というかたちでスタートしたザッポスは、実際にネットでもそれなりに靴が売れることを証明し、それからシステム化を進めています。

 オンラインストレージの「ドロップボックス」(Dropbox)の話も有名です。USBメモリでデータのやり取りをするのではなく、その代わりをネットでできればいいのではないかというアイデアを、彼らはまず、ビデオをつくって売り込むところから始めました。「こういうサービスがあったら本当に欲しいですか」ということを、確認して回ったわけです。