日本でも、昨年大変業績を伸ばし、ユニコーン企業になるのではないかと言われている「10X」というスタートアップがあります。現在、同社はイトーヨーカドーなど、ネットスーパーを展開する企業を支える小売のDX支援システム「Stailer」を提供しています。しかし、この事業を本格的に展開する前の2019年には、倉庫やトラックを借りて近所にチラシを配り、自社でネットスーパーをやってみて、そこでさまざまな価値の検証を行っていました。これが行けると分かってから、アイデアを実際にシステム化していき、現在提供するStailerにつながっているのです。

 このように、モノをつくる前に価値の提案をすることはできます。裏側の仕組みは全くエレガントではなく、システムなしで人が張り付いてスタートしたとしても価値提案は可能で、しかも実際にそれを回して検証することもできるのです。

 ですから実はモノをつくるということは、価値を提案し、それが受け入れられた後に継続して価値提供していくための手段に過ぎないのです。にもかかわらず、モノづくりにこだわりすぎている人が多いのではないかと感じます。

“モノがなくても売れる”ほどの
「バーニングニーズ」を探せ

 ここまで「モノはなくても提案はできる」ということをお伝えしてきました。次はさらに、「モノはなくても売れる」という話をしましょう。

 SaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)、すなわちパッケージでなくクラウドサービスとして提供されるソフトウェアの世界では、「Burning needs(バーニングニーズ)」という言葉がしばしば取り上げられます。バーニングニーズとは“頭に火がついていて、今すぐ消さないとマズい”というような顧客の課題のこと。この状態でそこに水の入ったバケツがあれば、顧客は「お金を払ってでも、その水をすぐにくれ」といって、頭からかぶろうと思うはずです。

 私の若い友人に、ソフトウェアのテストを自動化する「Autify」というスタートアップの創業者、近澤良氏という方がいます。彼はソフトウェアエンジニアとして、日本の他にシンガポールや米国でも経験を積んで、2019年には米国のスタートアップアクセラレーター「Alchemist Accelerator」(アルケミストアクセラレーター)を日本人で初めて卒業し、現在の事業を進めています。