その大きな原因のひとつが、脳にあります。脳が痛みの信号を記憶してしまい、ちょっとしたことでその記憶が呼び起されるたびに、痛みが発生してしまうのです。

 人は痛みを感じると、どうしてもその部分を動かさなくなります。すると関節や筋肉が固まってきて、血流も悪くなります。そして、気持ちも落ち込み、うつっぽくなる。すると、余計に痛みを感じやすくなって痛みが強くなるという、痛みの悪循環に陥ってしまうのです。

 こうなると、投薬や湿布、牽引や温熱療法、ブロック注射などさまざまな治療を行っても、それだけではなかなか良くなりません。ぐるぐると回り出してしまった痛みの悪循環をどこかで断ち切って、快方へと向かっていく逆の流れを作っていかない限り、慢性疼痛がラクになることはないのです。

 実際、このような慢性疼痛は決して珍しい痛みではなく、現在日本では、約2000万人以上の人が、何らかの慢性疼痛で苦しんでいるというデータもあります。この数字はデータのとり方によって変わってきますが、およそ5~6人に1人は、慢性疼痛を抱えているということになるのです。

痛みは「脳」で感じていた!

 整形外科医として仕事を続ける中で、私は整形外科領域での痛み治療に限界を感じはじめていました。痛みをコントロールするには脊髄をなんとかしなければならないと思っていたわけですが、さまざまな実験結果や臨床経験を経て、最終的な問題は脊髄ではなくて、脳なんじゃないかと考えるようになったのです。

 そこで、慢性の腰痛持ちの方を対象に次のような実験を行いました。高知大学の後輩たちに協力してもらったのですが、半分は5年近く腰痛の経験がある人、残りの半分は腰痛の経験がない人で行った実験です。

 被検者にはMRIに入ってもらい、最初は重そうな荷物だけの写真、次にその荷物を持ち上げようとしている男性、ただし顔は表情がないように加工してある写真を見せます。その上で、彼らがどういう経験をするかや、脳活動の変化を調べたのです。