オードリー・タンの
「人に行動してもらう」ための秘訣

 人に行動してもらうための秘訣は、「透明性とユーモア」だとオードリーさんは言います。情報公開によって透明性を高める。それによって「何も隠し事をしていない」という姿勢を示し、人から信頼を得る。さらに、必要に応じて情報にユーモアを添える。そうすることで興味を持ってもらうことができ、「これ、おもしろい」と、友人に情報を共有したり、SNSで広めたりしてくれ、多くの人へと伝わるということです。

 この話を聞いて、オードリーさんや台湾政府が発した、新型コロナ対策のための一連のメッセージを思い出しました。

 新型コロナウイルスの感染拡大によってマスク不足が深刻化したころ、オードリーさんが、台湾の「電鍋」を活用した、わかりやすくてユーモラスなマスクの再利用方法を動画で配信したことをおぼえている人も多いのではないでしょうか。

 また、台湾政府は、新型コロナの感染拡大防止のための注意を促すメッセージで、「室内では相手との距離は『犬3頭分』を保ちましょう」と、かわいい柴犬の写真を使って、ソーシャルディスタンスについてわかりやすく説明したりしていましたね。

 ほかにもオードリーさんは、感染拡大防止のキャンペーンにおいて、Fast(素早く)、 Fair(公正に)、Fun(楽しく)という「3つのF」を掲げ、情報をユーモアと共に透明性を持って楽しく伝え、同時に、政府に届いた意見や質問には素早く反応。そうすることで人々との信頼関係を構築したということです。

 このことは、ビジネスや人間関係におけるコミュニケーションにおいて、私たちも大いに参考にすべき点がありそうです。

難しい言葉を使わずに
民衆の心に寄り添う

 オードリーさんは、自分のことを「Poetician」と呼びます。これは「poet」(詩人)と、「politician」(政治家)を掛け合わせた言葉で、「難しい言葉を使わずに、民衆の心に寄り添う政治家」を意味するとのことです。

 実際、オードリーさんの言葉は本当に「詩」のようで、通訳中でもつい、その世界観に引き込まれてしまいます。講演の中で、ご自身のジョブディスクリプション(職務内容)について下記のように語ってくださいました。

 When we see “internet of things”, let’s make it an internet of beings.
「モノのインターネット」は、「人のインターネット」にしよう。

 When we see “virtual reality”, let’s make it a shared reality.
「仮想現実」は、「共有現実」にしよう。

 When we see “machine learning”, let’s make it collaborative learning.
「機械学習」は、「協力学習」にしよう。

 When we see “user experience”, let’s make it about human experience.
「ユーザー経験」は、「人の経験」にしよう。

 When we hear “the singularity maybe near”, let us remember the plurality is here.
「シンギュラリティー(特異点)は近い」という言葉は、「複数」が存在することを思い出そう。

※「singularity」には、「特異点」のほかに「単一」という意味もあります。「単一」に対しての「複数」、つまり「多様性」という意味で「plurality」(複数)という言葉を使った表現だと解釈しています。

 これは、ジョブディスクリプションというより、もはや詩です。さすが「Poetician」です。