オードリー氏が自らを「Poetician」と呼ぶその理由は?オードリー氏が自らを「Poetician」と呼ぶその理由は? Photo:Bloomberg/gettyimages

『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』の著者で、ダライ・ラマ、テイラー・スウィフト、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、オードリー・タンなどの同時通訳を務めてきた田中慶子さんが、日常やビジネスで役立つ「生きた英語」をやさしく解説します。今回は、オードリー・タンの通訳時に感じた「答えのない世界」を生きるためのヒントをお伝えします。(同時通訳者 田中慶子)

オードリー・タンの通訳をしていて
「時代が変わった」と感じた理由

 今年開催されたある講演会で、台湾のIT担当大臣(政務委員)であるオードリー・タン(唐鳳)さんの通訳をさせていただきました。オードリーさんのご活躍は多くのメディアで語られているので、私は同時通訳者としての視点で感じたことをお伝えしたいと思います。

 まず、そのときに一番感じたのは、「時代が変わった」ということです。

 通訳という仕事は機密情報に触れることも多く、すでに一般公開されている情報やニュースで報道されていること以外、通訳を通して知ったことは基本的にはお話しできません。

 会話の内容はもちろんのこと、「誰と誰が会った」という情報でさえ、聞く人によっては重要な情報であったり、参加人物の動向を察知する材料であったりするため、「一切、語らない」ということが基本です。「守秘義務を守れるかどうか」も通訳の重要なスキルなのです。

 しかしオードリーさんは、非常に透明性にこだわっていらっしゃいます。講演やミーティングの依頼を受ける際、インターネット上で公開することを条件にすることもあるほどです。

 私が通訳を担当した講演も、インターネット上の生配信でしたが、講演の内容は、外で話そうが、ブログやSNSに載せようが、まったく問題ないと言われました。そのおかげで私も、このようにオードリーさんの通訳をさせていただいたと、堂々と語ることができているわけです(笑)。

 その講演の中で、オードリーさんは「人に行動してもらうための効果的なコミュニケーション」について語っていました。