「年金は賦課方式よりも積立方式の方がよい」
という主張は勘違いである理由

 そんな勘違いのひとつが「年金は賦課方式よりも積立方式の方がよい」というものだ。現在の公的年金制度は賦課方式といって「現役世代が拠出した保険料を現在の受給者に給付する」というやり方である。この方法は日本だけでなく、先進国のほとんどが採用しているやり方だ。

優秀な金融マンが年金を誤解する理由筆者・大江英樹氏の近著「知らないと損する 年金の真実」(ワニブックスPLUS新書)

 一方、積立方式というのは「保険料を積み立てて運用し、将来の受給者に給付する」というやり方だが、世界中を見ても実際にそんな方式で運営されている国というのはほとんどないか、あっても人口の少ない国が年金制度の中のごく一部でしかやっていない。

 ところが年金をはじめとする社会保険制度には詳しくないけれど、経済や金融の知識の豊富な人にかぎって、「年金は賦課方式ではなく、積立方式で運営すべきだ」という。彼らがなぜそう考えるのかと言うと、その最大の理由が「少子高齢化になれば若い人の人数が減るのだから、現役世代が高齢世代を支える賦課方式は成り立たなくなる」ということだ。

 しかし、負担と給付の関係を単に年齢で切るのは間違いである。つまり「一人のお年寄りを何人の若者で支えるか?」が重要なのではなく、「一人の就労者が何人の非就労者を養っているか」で考えないといけない。

 なぜなら就労者、すなわち働いている人でなければ保険料を負担することはできないからだ。この観点で実際の数字を見てみると、“一人の就労者がほぼ一人の非就労者を養っている”という構造は実は過去50年間ほとんど変わっていないし、ここから20年後もほとんど変化はない。

 その主な理由は、高齢者と女性の就労が急速に拡大してきていることにある。詳しくは拙著「知らないと損する 年金の真実」をご参照いただきたい。もちろん少子高齢化は全く影響がないとは言えないものの、この理由だけで年金の財政方式を「賦課方式」から「積立方式」に変えよ、というのはいささか短絡的すぎるように思う。