『イカゲーム』は不平等が激化する韓国庶民の人生を描いたものである。『イカゲーム』は貧困層と富裕層を対照的に描いた作品であり、2020年のアカデミー作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』と同じような脈絡で作られている。

 ニューヨークタイムズは「文在寅政権に入り住宅価格の暴騰は国民の不安を大きくした」「『イカゲーム』中の456人の参加者のキャラクターは韓国の不安を直接表現しているが、社会進出の機会が見えない韓国の若年層から共感を呼んだ」「土の箸とスプーン世代といわれる若年層は、仮想通貨や宝くじのように手っ取り早く金持ちになれる方法に執着する」と述べている。

国民所得は伸びたものの
生活の質は大きく低下

 グローバル統計サイト「Numbeo」によると、今年の韓国の「生活の質(quality of life)」指数は130.02となり、評価対象国83カ国中42位となったとしている。「Numbeo」は購買力、所得に対する住宅価格比率、生活費、汚染、安全など幅広い分野で生活の質を評価している。

 ちなみには現政権が発足した2017年には「生活の質指数」162.49で67カ国中22位だった。現政権になって指標が大きく悪化したのは住宅価格暴騰と生活費の負担増が大きな要因であると分析されている。

 ランキングで韓国のすぐ上にあるのは南アフリカ(39位)、ルーマニア(40位)、プエルトリコ(41位)であるが、南アフリカとルーマニアは1人当たり国民所得がそれぞれ韓国の15%、43%の水準である。韓国の国民所得は伸びたが、それは生活の質には反映されておらず、生活が苦しくなっていることをこの指標が反映している。

諦めの風潮が
イカゲームを生んだ

 先述の通り、韓国は上昇志向の強い、競争の激しい社会である。しかし、今の韓国ではいかに努力し、最高の教育を受けた人でも、権力者からの「引き」がないと出世街道には乗れない閉鎖社会になりつつある。

 そして、今の権力者は革新系政治家であり、財閥である。それゆえに既存の政治家と財閥に対する反発は強い。

 現政権の中枢にいる人々は、長年、経済成長の果実から疎外されてきた。しかし、こうした人々が政権を握ると過去の不公正や不平等を是正しようとするのではなく、自らが経済成長の果実にあやかろうとして、不動産投機にまい進し、蓄財を重ねてきたのである。それが曺国(チョ・グク)元法相による娘の進学やファンド投資などを巡る不正や、韓国土地住宅公社の職員らによる不正な土地投機などの温床となった。