20歳で代表役員に就任した実家のお寺。承継当初は危機的な状況でしたが、墓地の販売を立て直し、檀家との関係も修復しました。そうして見えてきたのが地元・熊谷市の「地方創生」でした。熊谷市外や県外から観光客を呼び込みたい!ということで2018年から新たに初詣客の受け入れにチャレンジしましたが、ここでもまた数々の苦難が待ち受けていました。(ELternal代表取締役社長CEO 小久保隆泰)
埼玉県北で人口減少が加速する地元
「地方創生」としての初詣にチャレンジ
前回は、20歳の時に父の急逝を受けて実家のお寺の代表役員に就任し、墓地の販売を軌道に乗せて、長らく悪化していた檀家との関係を改善し苦境を乗り越えたお話でした。
寺院の経営が軌道に乗ったところで、私はお寺の外に目を向けるようになりました。当時も今と同様、全国各地で地域の人口減少問題が叫ばれていました。2016年のある日、地元熊谷市のホームページを見ると、市の人口減少が進み、とうとう人口20万人を切ってしまったことを知りました。
14年に開かれた「日本創成会議」で、日本にある1800自治体の約半数にあたる896自治体が「2040年に消滅する可能性がある」とするショッキングな発表がなされ、全国的に大きな衝撃が走りましたが、このままでは熊谷市も近い将来消滅の危機に陥ってしまうのではないかと私自身危機感を募らせました。
熊谷市は埼玉県内でも群馬県に近い県北地域にあり、都心寄りのさいたま市や川越市と比べ、いわば“田舎”です。実際に過疎地域も県北に集中しており、熊谷市の人口減少は今後も進むことが確実とされています。
思い返してみると、私が幼少のころには活気のあった駅前通りの商店街も、シャッターを下ろした店舗が増え、当時の活気を失っていました。熊谷市で生まれ育った私としては、このまま地元が衰退していってしまうのかと寂しく感じていました。
そこで田舎が人口減少を食い止める方法を自分なりに調べていくと、観光資源を磨いて地域の特色を打ち出しながら外から人を呼び込む必要があるということがわかりました。
しかし、熊谷市には全国的な知名度を誇る観光資源がなく、観光目的で訪れる人はほとんどいませんでした。
そこで、人気の観光スポットにはどのような特徴があるのかを知りたいと思い、旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」で調べてみました。
すると、驚いたことに「外国人に人気の日本の観光スポットランキング(2017年)」トップ10の中に、6つの寺と神社がランクインしていたのです。寺社仏閣が観光地として人気があることはもともと知っていましたが、ここまで上位に集中しているとは思っていませんでした。
その気づきを受けて、自分のお寺を起点に県外や市外から観光客を熊谷に呼べないかと考えるようになりました。そこで法事に来られた檀家さんや親族にアンケートを取り「お寺に行くのはどんなときか?」と調査をしてみました。
お寺で顧客アンケートなんてと思われる方もいるかもしれませんが、私は墓地販売の時から常にアンケートを大事にしています。理由は顧客目線を持つためには顧客の声を聞くことが不可欠であると感じているからです。
これを私に教えてくれたのが経営学者であるピーター・ドラッカーでした。「マーケティングは顧客からスタートする。我々は何を売りたいかではなく、顧客は何を買いたいかを問う」という言葉は「顧客目線」の重要性を私に気づかせてくれました。
話を戻しますが、アンケートを取ってみると「初詣」と「観光」が最も回答として多かったのです。ただ、当時の熊谷は観光目的で来る方はほとんどいなかったので、まずは、初詣で熊谷に人を呼び込むことから始めようと決めました。
実際に、新型コロナウイルスが広がる前は、有名なお寺、神社は初詣の際、多くの参詣客であふれ返っていました。そうした風景を、埼玉厄除け開運大師・龍泉寺でも実現したい。そして、多くの人を呼び込むことを通じて地域の活性化につなげていきたいと考えました。