禅の思考から考える
「自分らしさ」の作り方
入山 プロセスエコノミーの話から少し離れるかもしれないんですけど、α世代になってくると、つながっている感は我々の世代よりも強くなるんですか?
尾原 はい、強くなりますね。これはTwitter社に7年くらい前に遊びに行った時の話ですが……。
「どうして日本はTwitterで複数のアカウントを作ったり、アカウントを変えたりするんだ?」と質問されたんです。
あ、世界ってやらないんだと思って、「日本人は同調圧力が強いから、趣味の時の名前を変えたいものなんだよ」と言ったら、「日本は不思議な国だね」と。
それが3年くらい前になって、「尾原、世界中でみんな複数アカウントを作り始めたぞ!」と言われたんですよね(笑)。
「つながるのが当たり前」になってくると、ずっとつながっているから息苦しさが増して、ネットの中で別の人格を使い分けるのが当たり前になってくるわけです。
入山 おもしろいなぁ。
尾原 先ほど言ったように、Z世代は、幼少期はリアルで過ごして、中学生の頃からネットにつながり始めた人たちです。一方で、α世代は、生まれた瞬間からネットにつながっていて、初めて出会う他人がネット上にいる。
入山 なるほど! おもしろいですね。
なぜこんな質問をしたかと言うと、禅の世界で有名な藤田一照さんというお坊さんがいて、過去に対談したことがあるんです。その時に聞いた話ですが、禅の根本の発想だと「人間はすべて根底でつながっている」らしいんですよ。
地上だと木と木は離れているように見えるけど、根っこはつながっている。つまり、我々はつながっているのを隠しているから、みんな別人だと思っている。そのつながりを隠しているのが「自我」だと。
尾原 そうですね、はい。
入山 尾原さんはご存じかもしれませんが、禅では「自我を取ること」が悟りである。そして悟るとは、「みんなつながっている」という感覚を持つことだって話になって。
僕は最初にそれを聞いた時に、エヴァンゲリオンの「人類補完計画」だと思ったんですね。
尾原 まさに! その通りですね。
入山 α世代になってくると「つながっている感覚」が前提ですよね。でも、先ほどのTwitterのお話だと、複数の自我、アカウントがある。だから、「この時にはこういう自我」って感じで自分を保っているということですか?
尾原 そうですね。先日、藤原和博さんと話していておもしろかったのが、「自分の作り方も変化してきている」と。
昔は、生まれた瞬間に生まれた時の環境が自分を決めてくれました。庄屋に生まれたら庄屋の跡取りだったし、いい会社に入ったらいい会社が自分を決めてくれた。でも、今は自分で自分を決めないといけない。
じゃあどうするかと言うと、今はネットのおかげで越境ができるから、「関わり合いの中の掛け算」で自分が生まれてきます。α世代になると、3歳の時からそれが始まるということですよね。
入山 おもしろいですね。
尾原 周りが決めてくれないということは、お互いがぶつかるプロセスの中でしか自分が生まれません。それをどうしていくかだと思うんですよね。
入山 おもしろい。他者との関わりの中で相対的に自分ができて、それが自分の中にいっぱいあるという。なるほどね。
尾原 まったく新しい時代が生まれてきていますね。
というわけで、今日はありがとうございました。めちゃくちゃ濃厚でした。
入山 あっという間に終わってしまいましたね。ありがとうございました。