だが県警は「少なくとも400メートル余り手前からも踏切の状況を見通すことができたうえ、それまでにブレーキをかけていれば衝突は避けられた」が、運転士が「計器に気を取られて前をよく見ていなかった」ことが事故につながったと判断した(当時のNHKの報道による)。

 一方、事故調査報告書は運転士の証言をもとに、事故直前は「踏切道の状態確認、下り第2閉そく信号機の喚呼、時刻表の確認、時計の確認及び速度計の確認を行っていたものと考えられる」と記している。

 運転士は当然、計器や信号を確認しながら運転しており、警察に対してもそのように説明したのだろう。だが警察は「衝突した」という結果と「計器を見た」という事実をつなぎ合わせ、計器を見ていたために判断が遅れ、衝突につながったというストーリーを描いた。警察の取り調べではよくある話だ。

 だがこの見立ては本当に成立するのだろうか。京急やJR西日本を含む多くの鉄道事業者では、運転士は常設信号機の位置を把握し、信号の現示を指差喚呼(「出発、進行」のような掛け声)しなければならないが、実は特発の位置を記憶しなければならないという規則は存在せず、指導も行われていない(もちろん業務知識として要注意箇所を記憶する運転士はいる)。

 つまり、信号を見るべきところで計器を見ていたのではなく、計器を見ていたところ、たまたま信号が点滅していたのである。これが事故報告書の言及する「予期しないタイミングで停止信号を現示する(特発の)特殊性」である。

 しかし、沿線に多数設置された特発を全て記憶するというのは現実的ではない。根本的な解決策は踏切障害物検知装置と保安装置(ATSやATCなど)を連動化し、運転士の視認に頼ることなく列車を自動的に停止させることだが、さまざまな事情でそれができない場合はシステムに十分な余裕を持たせるしかない。この点で京急の安全対策が不十分だったのは否めず、運転士の責任のみを強調することは適当ではない。