宣言の前に人流が減少する

 宣言の前に人流が減少するのは、緊急事態宣言の効果がないというのではなく、その前に感染者の増加が報道され、マスコミのコロナあおり報道によって自粛がなされるというメカニズムを表しているのだろう。政策よりも「空気」や「同調圧力」が大きな力を発揮しているということだ。

 第1回の緊急事態宣言は、20年4月7日に7都府県で発出されたが、その前の3月29日にタレントの志村けん氏が新型コロナにより死亡したことが大きく報道され、4月3日には北海道大学の西浦博教授が「コロナ感染症を抑えるためには人と人との接触を8割削減すべき。何もしないと、40万人以上が死亡する」と述べたことが影響を与えていよう(NHKニュース「人と人との接触 8割削減で感染収束へ 専門家グループ」2020.4.3)。さらに、マスコミは感染しても治療を受けられない状況を報道し、不安をあおっていた。朝日新聞に医療崩壊に関する記事が掲載されたのは20年2月が最初で2件だったが、4月には174件に跳ね上がった。

 ただの風邪でも病院に行って抗生物質をもらっていた国民としては、治療を受けられないという不安には耐えられない。不安を払拭(ふっしょく)するためには、感染しないようにするしかない。医療体制拡充の失敗が国民に恐怖を与え、恐怖が国民の行動自粛を促し、感染症対策の限定的な成功をもたらしたのではないか。

 宣言前に人流が減少するのは20年末でも同じである。ただし、21年4月25日、7月12日の緊急事態宣言では、発出の前に人流が減少してはいない。人流が減るのは、緊急事態宣言が発出されてからである。おそらく、あおり報道に慣れた人々がコロナ前よりは低いレベルで耐えながら暮らしていたので、さらにそれ以上下げる気がしなかったということだろう。

 また、飲食店においても緊急事態宣言が出て初めて対象となる支援がある。緊急事態宣言が出てから営業時間を短縮するので、宣言が発出されないと人流が減らないということになったのだろう。