国政選挙がネット投票に変わらない
ちょっとだけ怖い裏事情

 先にこの裏の事情を象徴する事実を紹介しておきましょう。技術的にはネット投票が実現できる社会が誕生しているのにもかかわらず、先進国の中で国政選挙にネット投票を全面的に取り入れている事例が、いまだにエストニア1国しか存在しないのです。

 もちろん国政選挙でもオーストラリアの一部の州で導入したとか、フランスでは在外フランス人の投票に導入したとか、部分的な事例は他にも存在しています。ほとんどの先進国で選挙制度のネット化に興味を示し、日本もそうですが地方自治体選挙での導入例は散見されているにもかかわらず、世界の潮流としてネット選挙へ突き進んでいる国がエストニアしかない。こういう問題にはそれなりの裏事情が存在しているものです。

 ここから先は話が生々しくなるので、日本ではなく、日本と同じく投票率が50%台と先進国の中では比較的低いアメリカの事情をもとに、なぜアメリカが低い投票率を放置しているのか、そしてなぜ先進国がエストニアに倣わないのかを検討してみます。

 アメリカの社会ドキュメンタリー番組で、選挙制度の問題は何度も題材として取り上げられています。アメリカでは州ごとに選挙制度が微妙に違い、その選挙制度は現職の議員が自分に有利な方向でルールを作る傾向があることが社会問題になっています。

 たとえばアメリカ人が選挙に投票するためには登録をしなければならないのですが、その登録方法を不便で面倒にしておくと黒人の登録率が低くなる傾向があるといいます。あからさまにはそうは口に出さないのですが、保守系の政治家にとってはその方が有利だと考えて、不便な仕組みを変更しない。そして実際の選挙では現職の政治家が接戦を制するという結果になっている州がいくつも存在しているのです。

 これはアメリカ全体の問題なのですが、政治家の対立軸は大きく保守と革新に分かれていて、世論調査では微妙に革新の方が多数派になるのですが、選挙では結果が拮抗している。この結果を引き起こしている一番の要因が選挙制度だと指摘されているのです。

 そのような現職議員が、2007年から始まったエストニアのネット国政選挙から学んだことがあります。ネット選挙を導入したエストニアでは国政選挙に対する国民の投票行動が、がらりと変化しました。そして2003年までは第三党だった改革党が、2007年以降、4回の国政選挙ですべて第一党に躍進したのです。

「ネット選挙を導入すると、得票の傾向が大きく変わってしまう」

 これが、ネット先進国エストニアが証明した、選挙のネット化の真実です。そしてこれはアメリカだけではなく、すべての国の現職議員にとって不都合な真実でした。

 もちろん、状況証拠だけで証明することはできません。日本でもネット選挙の導入に向けて有識者会議は行われています。でも、そんな日本だけではなく、OECDに加盟する西側先進国でエストニア以外、ほとんどの国がネット国政選挙に踏み切らないことは事実です。そしてそのことと、選挙制度を決めるのが現職議員であるという当たり前の事実の間には、何やら深い因果関係がありそうだと私には見えるのです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)